
巨神ゴーグ ポストカード 悠宇&ドリス
【アニメのタイトル】:巨神ゴーグ
【原案】:矢立肇
【アニメの放送期間】:1984年4月5日~1984年9月27日
【放送話数】:全26話
【監督】:安彦良和
【キャラクターデザイン】:安彦良和
【メカニックデザイン】:佐藤元、永野護
【音楽】:萩田光雄
【脚本】:辻真先、塚本裕美子
【作画監督】:安彦良和、土器手司
【美術監督】:金子英俊
【音響監督】:千葉耕市
【チーフ演出】:鹿島典夫
【企画・制作】:日本サンライズ
【放送局】: テレビ東京系列
●概要
■ 80年代SFアニメに刻まれた“異色の名作”
1984年春。ロボットアニメの黄金期に送り出された一本の作品が、静かに、しかし確かな存在感をもってテレビ東京の夕方枠に登場した。作品名は『巨神ゴーグ』。本作は、ただのロボットアニメではなかった。スケールの大きな冒険活劇、国際的な陰謀、少年の成長、そして“神”と呼ばれる存在との邂逅──それらが絡み合い、まるで一編のSF長編小説をアニメーションとして紡ぎ出したような物語が、全26話にわたって描かれた。
■ 総合演出・安彦良和の手による“完全掌握”作品
『巨神ゴーグ』の最大の特長は、その制作体制にある。原作から監督、キャラクターデザイン、作画監督に至るまでを手がけたのは、アニメ界の巨匠・安彦良和。彼の構想を軸に、レイアウトや演出面でも統一感を持たせ、作品全体に一貫したビジョンが通底していた。
ロボットアニメでありながら、戦闘描写だけに頼らないストーリーテリングは、当時の視聴者に強い印象を残した。また、驚くべきことに、本作は放送開始前にほぼ全話の制作が終了していたという。スケジュールに追われがちなテレビアニメの現場において、これは極めて稀なことであり、作品の完成度に対する製作陣の意気込みの表れとも言える。
■ “神の島”をめぐる少年の冒険譚
物語の舞台は、1980年代の地球。しかしそこには、我々の知る歴史の影に潜んでいた「神の遺産」が存在していた。主人公の少年・田神悠宇(たがみゆう)は、亡き父が遺した手帳を手がかりに、“オウストラル島”と呼ばれる謎の地へと向かう。
そこには、人類が知らぬ巨大な存在――青い巨神「ゴーグ」が眠っていた。やがて悠宇は、ゴーグと精神的に強く結びつき、彼と共に大国の陰謀や軍事組織「GAIL」と戦う運命を背負うことになる。単なる冒険を超えて、少年の成長、信頼と裏切り、そして人類の在り方を問いかけるストーリーが展開される。
■ キャラクターとロボットの個性が物語を深化させる
『巨神ゴーグ』のキャラクターは、どれも一筋縄ではいかない存在ばかりである。悠宇の導き手となる冒険家・ロッド・バルボアや、島の秘密を知る謎の少女・ドリスなど、魅力ある人物が次々と登場する。
また、ロボットという存在も本作では単なる兵器ではない。タイトルにもなっている“ゴーグ”は、意思を持つ存在であり、決して人間の命令に忠実に従うわけではない。敵側にもさまざまな兵器が登場するが、佐藤元と永野護という才能豊かなデザイナーが生み出したサブメカたちは、それぞれ異なる思想や戦略の体現者とも言える個性を持つ。
■ 設定の緻密さが生み出す“本格SF”としての重み
『巨神ゴーグ』は、安彦良和の持ち味である「リアル志向のSF世界」が存分に反映された作品である。島の環境、文明の痕跡、ゴーグの起源、国家間の対立構造など、細部にまで徹底した設定が施されており、一話ごとに物語の“奥行き”が深まっていく。
特に印象的なのは、技術と神話の交差する部分である。古代文明と地球外技術、科学と精神性といった二項対立が物語の軸にあり、それを通じて“人間とは何か”という問いが浮かび上がる。
■ メディア展開と商品化
当時の人気の証
アニメ放映と並行して、さまざまなメディア展開がなされた点も見逃せない。まず、講談社の『コミックボンボン』誌上では、漫画家・清水緑(のちの清水としみつ)によるコミカライズが連載された。少年誌における展開ながら、原作と同様の硬派なトーンが維持されていた。
また、当時の玩具メーカー・タカラ(現タカラトミー)からはプラモデルやフィギュアが発売され、子どもたちのあいだでも人気を博した。2014年にはフィギュアメーカー「千値練」が、ハイクオリティな可動フィギュアを“T-REX”との共同ブランドで展開。さらに2022年にはフライングドッグよりBlu-ray BOXが発売され、往年のファンを中心に再評価の機運が高まった。
■ 小説・ゲームといった外部展開の豊かさ
『巨神ゴーグ』の物語は、アニメの枠を超えて小説やゲームにも広がっていった。1984年にはソノラマ文庫からノベライズが上下巻構成で刊行され、アニメでは描ききれなかった細部や心理描写が深く掘り下げられた。
加えて、1985年にはパソコン用ゲームも登場。初期のホビーパソコン時代におけるアニメゲームとしては非常に先駆的であり、ファンにとっては“自らゴーグを操作する”という夢を叶える存在となった。
■ 時代を越えて語り継がれる理由
『巨神ゴーグ』は、表面上は少年冒険ものとして親しみやすいが、実際には極めて重厚なテーマを内包するSF叙事詩である。国家と企業、信頼と裏切り、文明と自然、技術と神話……そうした要素が絶妙なバランスで構成されており、単なる一過性の“子ども向けロボットアニメ”にとどまらない、普遍的な魅力を放っている。
今なお語り継がれ、復刻される理由は、こうした骨太の内容と、安彦良和という稀代のクリエイターの手による一貫性にある。アニメ史における“知る人ぞ知る名作”から、“語るべき一本”として、再び脚光を浴びる日もそう遠くはないだろう。
●あらすじ
■ 父の遺志とニューヨーク・サスペンス
田神博士が残した「島へ行け」という手紙を胸に、悠宇は単身アメリカへ渡る。ウェイブ博士の粗末なアパートを訪ねた直後、GAIL 私設部隊の破壊工作で建物が崩壊し、一行は愛犬アルゴスとともに夜のハロウィーンの街へ逃亡する。ここで悠宇は、GAIL御曹司ロッド・バルボアとすれ違いざまに因縁を生むが、ロッド自身も島の謎に取りつかれており後の宿敵かつ共闘者となる。
■ 北米横断
荒野を駆けるバスとコンボイ
ウェイブの旧友で素性不明の“船長”が合流。変装用バスに乗って西海岸を目指すが、ラスベガス手前でレイディ・リンクス率いるクーガー・コネクションがバスを乗っ取る。さらにGAIL特殊部隊ジェフが大型トレーラー群を差し向け、デスバレーで銃火と岩雪崩が交錯する三つ巴のチェイスが勃発。船長は卓越したドライビングで悠宇らを救い、「CIAと契約した工作員」という後の正体を匂わせる。
■ オウストラル島上陸
蒼き巨神ゴーグとの邂逅
航行中の貨物船をGAILのミサイルが沈め、悠宇は島の岸辺で分断される。そこに謎の多脚怪物〈シー・クローラー〉が出現──絶体絶命の瞬間、蒼い巨神ロボットが現れ怪物を粉砕し、悠宇の前に跪いて手を差し伸べる。言葉を介さない温かな眼差しに悠宇は“懐かしさ”を覚え、ドリスはとっさに「ゴーグ」と名付ける。巨神の胸腔には風化した異星人の白骨が座しており、ゴーグが“誰かを乗せる器”であることが示唆される。
■ 島の攻防
ゲリラ、海坊主、そして“海底の門”
旧島ゲリラのアロイとサラが合流、GAILが築いた前線基地“海坊主”との局地戦に発展。ゴーグは悠宇の負傷に怒りを露わにするが、少年の呼びかけで敵陣を迂回するなど“意志”を示す。やがてゴーグの歩みは新島中央の巨大火口へ向かい、泉底の金属パネル“時の扉”を開いた先で紫の巨神と異星人マノンが姿を現す。
■ 地下遺跡
三万年の眠りと異星文明の告白
マノンはテレパシーで「ゴーグ=弟ゼノンの守護機」であると語り、惑星間文明の観測実験として島を創った経緯を明かす。しかしGAILが無謀な爆薬で扉を破壊したことで遺跡は水没し、マノンの怒りにより量産型防衛機 ドークス・ガーディアン が解き放たれる
giant-gorg.net
。ロッドは圧倒的火力の前に恐怖しつつも、人類側代表として戦禍を止める決断を固める。
■ 捕縛と脱出
タウン・パニックから核の影
GAILは悠宇とゴーグを捕獲しニューヨーク本社へ移送しようとするが、旧島ゲリラの奇襲で輸送機は墜落。悠宇の叫びに応じてゴーグが覚醒し、装甲車を薙ぎ払ってタウンを蹂躙する。そのさなかCIAに真相を報告した船長の通信で、米国政府は島を核攻撃で葬る決定を下す。
■ ガーディアンの群れと蒼き別れ
火口噴火とともに無数の ラブル・ガーディアン が出現し、ゴーグは孤軍奮闘。ロッドは悠宇に頭を下げ協力を求め、両者は初めて対等な戦友となる。上空には各国の核ミサイルが迫り、マノンは島ごと海底へ沈ませる“封印プロトコル”を発動。ゴーグは悠宇をキャリア・ビーグルに押し戻し、島に残って沈降装置のエネルギー源となり自らも深海へ消える。濁流の彼方で光が消え、悠宇は「また会える」と涙をこらえ空を見上げる。島の痕跡も巨神の影も無い海原に、彼の冒険が刻んだ“遠い絆”だけが残された。
●登場キャラクター・声優
●田神悠宇
声優:田中真弓
13歳の中学一年生で、亡き父が遺した手紙を頼りに単身渡米する行動派の少年。島へ渡ると青い巨神ゴーグと心を通わせる特異体質を自覚し、異星文明の血を引く“架け橋”として覚悟を固める。直感と動態視力に秀で、危地では驚異的な反射神経を発揮する純真なリーダー格だ。
●ドリス・ウェイブ
声優:雨宮一美
14歳の兄思いな少女。気丈で声が大きく、兄のグズさにしょっちゅう雷を落とすが、本心では悠宇に淡い恋心を抱く。思い込みの強さがしばしば騒動を呼び込み、島のトラブルメーカーとして物語をかき回す存在。
●トム・ウェイブ
声優:キートン山田
ハーバード大で博士号を三つ取った才人だが、研究以外は超が付くズボラ。亡師・田神博士の意志を継ぎ島の謎に取り憑かれ、危地でも論文口調で考察を始めて周囲を呆れさせるが、その洞察力で遺跡の在処を突き止める学術エース。
●船長
声優:今西正男
貨物船の船長を名乗る45歳前後の巨漢。実はCIAと契約する情報屋で、銃の扱いと機転で仲間を何度も救う影の作戦司令塔。飄々と笑みを浮かべつつも任務遂行のためには非情な判断も辞さず、悠宇の純粋さに触れて次第に人情家の顔を覗かせる。
●アロイ
声優:向殿あさみ
旧島で育った14歳の少年兵。身長160 cmで小柄ながら、ライフルと機銃の腕前は一級品。兄貴分トメニクに憧れつつ、掟を破り新島へ同行し悠宇達と衝突も経験する。熱血漢ゆえ大胆な行動が裏目に出ることも多いが、仲間思いの芯は揺るがない。
●サラ
声優:神保なおみ → 佐々木優子
アロイと共に戦う旧島出身の少女。151 cmの小柄な体格ながらゲリラ内では伝令と後方支援を兼ね、危険な前線でも怯まず行動する度胸の持ち主。感情表現が素直で、ドリスと姉妹のような友情を育む。
●トメニク
声優:立木文彦
身長186 cmの屈強な青年で旧島ゲリラの行動派リーダー。寡黙な職人気質ながら機械いじりやビークル操縦の腕が高く、仲間の“万能ハブ”として活躍。冷静沈着な判断で、しばしば暴走しがちな若手を支える兄貴分的存在だ。
●ホツ・マツア
声優:大久保正信
島に伝わる英雄の血を引く長老でゲリラの精神的支柱。伝統と掟を重んじ、当初は新島上陸を禁じていたが、事態の深刻さを悟るや自ら先頭に立って出陣し悠宇を救う。慎重ながら決断の早い“賢老”として描かれる。
●ロッド・バルボア
声優:池田秀一
多国籍企業GAIL創設者の血を引く23歳の若き支社長。UCLA出身の行動派で、スリルを求め最前線に躍り出る野心家。しかし島の秘密が人類存亡級の危機へ転じると、企業人ではなく一人の人間として戦い、かつての恋人レディを命がけで守る熱い一面を見せる。
●ロイ・バルボア
声優:藤本譲
GAIL会長にして巨富を築いた辣腕実業家。政財界に根を張る影響力で島の存在を地図から消し去るなど冷戦期の暗躍者だが、プロジェクト失敗とCIA介入で破綻を迎え、頂点から奈落へ転げ落ちる。権力の怖さと脆さを体現した人物像だ。
●レディ・リンクス
声優:高島雅羅
ラスベガスを束ねるクーガー・コネクションの妖艶な女ボス。冷酷で知略に富む一方、元恋人ロッドへの未練を捨て切れず、悠宇を狙う策も愛憎に揺れる。敵役でありながら情に厚い“黒薔薇”のような存在感が光る。
●主題歌・挿入歌・キャラソン・イメージソング
●オープニング曲
曲名:「輝く瞳〈BRIGHT EYES〉」
歌:TAKU
作詞:康珍化
作曲:鈴木キサブロー
編曲:萩田光雄
■ 楽曲データと制作背景
1984年春、サンライズ作品『巨神ゴーグ』の幕開けを飾ったのが、スリリングなシンセとブラスが駆け抜ける「輝く瞳〈BRIGHT EYES〉」である。レコードは7インチで発売され、当時のアニメ主題歌としては珍しく B 面に英語副題を冠し、国際色を強調した仕様だった。編曲を担当した萩田光雄はフルサイズ版でストリングスとホーンを重ね、テレビサイズ(1 コーラス)では A メロからサビまでの高低差を際立たせるミックスに再編集。これにより、放送開始直後の 90 秒で物語の「未知への旅立ち」というテーマを凝縮して提示している。
■ サウンドイメージ
イントロは硬質なシンセベースが 16 ビートを刻み、その上にティンパニが連打――まるで大洋を割く推進音だ。続く E♭m→B→F#→C# というコード進行は、聴き手の耳に「水平線が大きく開く」ような広がりを与え、そこへブラスセクションが高らかに鳴いて主旋律を導く。A メロは抑えられた音域で“SECRET だれかがほら呼んでる”と謎を示唆し、プリコーラスでベースラインが半音階上昇することで胸の高鳴りを増幅、そしてサビで一気に跳躍するメロディが〈BRIGHT EYES〉という言葉と同期し「視野が開ける瞬間」を音で可視化してみせる。80 年代中期に流行した“都会派フュージョン”の質感をロボットアニメに移植した点が斬新で、以後のサンライズ作品(『エルガイム』『ダンバイン』など)の OP にも影響を残したと評される。
■ 歌詞の概要と物語との連結
歌詞は二層構造だ。表層では“呼び声”“時を超えた約束”“鍵を探す旅”といった印象的なワードで主人公ユウの冒険をなぞるが、行間では「過去と未来の扉を開くのは君自身のまなざしだ」という自己発見のメッセージが脈打つ。たとえばサビ冒頭 “ゴーグ 過去と未来の とびらをひらく” というフレーズは、作品世界の巨神を直接描写しつつ、聴き手の胸にも「恐れず進め」という暗号を刻む。康珍化らしいイメージ喚起型の語彙と、英語フレーズ “DON’T STOP!” “I KNOW!” を射し込む技巧が、カタカナ SF の世界観とシティポップ的洗練を同居させている。
■ 歌手 TAKUの歌い方
TAKUは男性としては高めのテノール域。母音を鋭角に切り、語尾に短いエッジを添えることで疾走感を生む一方、B メロでは息を多く含んだファルセットを挿入し、冒険への不安と期待を繊細に描写する。特筆すべきはサビ終盤 “めぐりあいたい” のロングトーンで、軽いビブラートをかけながらも音程を微動だにさせず保持する技巧が、巨神ゴーグの“静かな威厳”をボーカルで象徴している。ライブでのセルフカバー(近年の配信イベントより)では、原曲より半音下げる代わりにシャウトを増量し、年月を重ねた声の重みを作品の“回顧と再発見”というテーマへ昇華している点がファンに好評だ。
■ 視聴者の感想・評価
放送当時、アニメ誌の投稿欄には「ハード SF の画面に“アイドル歌謡的 OP”が意外にマッチ」と驚く声が多数寄せられた。一方で歌詞の“鍵”や“扉”は 1980 年代児童向け作品に見られる定番モチーフでもあり、小学生のファンからは「学校の合唱コンクールで歌いたい」という手紙が制作会社に届いたとの逸話も残る。近年のアニメソング DJ イベントでは、イントロのシンセフィルで歓声が上がり、サビで合唱が起こるのが定番。映像ソフト発売(2022 年)の特典座談会では、安彦良和監督自身が「ユウの無垢な視線を音で描いてくれた」とコメントし、40 代~50 代の視聴者だけでなく当時を知らない若年層からも「80 年代シティポップ再評価の流れで聴き直すと新鮮」という声が SNS に多数投稿された。結果として、本曲は“懐かしいのに古びない”という稀有な立ち位置を獲得し、アニメ史だけでなく J-POP 史の隠れた名曲として再照明されている。
●エンディング曲
曲名:「BELIEVE IN ME, BELIEVE IN YOU <君を信じてる>」
歌:STEAVE(スティーヴ)
作詞:康 珍化
作曲:鈴木 キサブロー
編曲:萩田 光雄
■ サウンドが描く情景 ― アレンジと音像
柔らかなエレクトリックピアノのアルペジオに導かれ、ストリングスが波のように重なる序章。打ち込みではなく生ドラムを軸に据えたスローバラードで、BPM は約70。ベースは輪郭を強調せず、低域をふわりと支える設計。サビでは管弦が一斉に広がり、タイトルに込められた“信頼”が天井を突き抜けるかのような多幸感を生む。萩田光雄のアレンジらしい厚みのあるコードワークが、未来志向のSFロボットアニメと1980年代のシティポップ的ムードを絶妙に橋渡ししている。シンセブラスではなくリアルブラスをうっすら混ぜることで、機械と人間が共存する物語世界を音でも体現しているのが巧みだ。
■ 歌詞の世界観 ― “信じる”という行為の冒険譚
康珍化のペンは、戦いや別れを直接描かず「君を信じる」「ぼくを信じてほしい」という言霊に絞り込み、視聴者の想像に委ねる余白を確保。1番Aメロでは“闇に射す微かな光”を示唆して状況説明を圧縮、Bメロで“足音そっと重ねよう”と二人称を引き寄せ、サビで「Believe」を連打して決意を爆発させる。2番では“風の匂い”や“海図のない旅”といった抽象的イメージを追加。最終サビ直前には〈いつか傷も旅の証になる〉というフレーズが差し込まれ、主人公ユウとゴーグが歩む道のりを暗示する。恋愛歌の体裁を取りつつ、“仲間を信じて未知へ飛び込む”という冒険譚へ巧みにすり替えている点が秀逸である。
■ STEAVEのヴォーカル表現 ― 静と動の二層構造
STEAVE はハスキー気味の中低域を生かし、Aメロを囁きでスタート。ブレスを残して録ることで耳元で語りかける親密さを演出する一方、サビでは倍音を解放し、声圧を掛けて一気に空間を押し広げる。ロングトーンはヴィブラートを抑え、まっすぐ伸ばし切ることで“揺るぎない信頼”を象徴。バックコーラスとユニゾンする箇所で声を少しだけ後ろへ引き、仲間と肩を組むような包容力を醸し出すミックスバランスも聴きどころだ。80年代洋楽ロックの影響を受けた英語の発音がアクセントとなり、作品の国際色をさりげなく補強している。
■ 視聴者・ファンの受け止め方
感情のカタルシス
最終回のエンドロールで流れたとき、「物語が終わっても信じ合う心は続く」と胸を熱くしたという声が多い。戦闘シーンの余韻を静かに包み込み、深夜に一人で見返すと涙腺に来る“後追いタイプ”の名曲という評価が定着している。
カラオケ文化との親和性
発売当時はレコードのみだったが、90年代にカラオケ配信されると“キーが高すぎず歌いやすい”とファンイベントの定番曲に。2番以降の英語詞がちょうど良い難度で、アニメソングビギナーでも挑戦しやすい。
音質重視派のこだわり
近年のリマスター盤ではストリングスの定位が改善され、サビの広がりが格段にアップ。「ヘッドホンで聴くと初めて低域のハープが聞こえる」と驚く旧来ファンも。アナログ盤特有の暖かさを推す層との“聴き比べ論争”もコミュニティで花盛りだ。
コスモポリタンな歌詞解釈
“Believe”という普遍的キーワードから、作品を知らない海外リスナーにも刺さりやすいとSNS上で拡散。近年は英語圏のシティポップ再評価ムーブメントの文脈でプレイリスト入りする例も増加している。
制作トリビアと余談
鈴木キサブロー自身は当初バラードではなくミドルテンポのロック案を提案していたが、監督の安彦良和が「終幕は静かに幕を閉じたい」と語り、現在のフォームに決着したとインタビューで回想。
レコーディングは昼夜をまたぎ 2 テイクで完了。STEAVE は「1テイク目の夜明け直前の空気が曲に合っていた」と語り、実際に採用されたのはその最初のテイクだという。
1984年当時のレコード販促ポスターには“ゴーグの瞳に映る朝焼け”が大きく配され、曲の夜明けモチーフがビジュアル的にも押し出されていた。ポスターはコレクター市場で今も高値を維持。
●挿入歌
歌名:「CALL MY NAME」
歌手:中村裕介
作詞:康珍化
作曲:中村裕介
編曲:萩田光雄
■ サウンド・イメージ
幕開けはシンセパッドがかすかな風のように浮かび、アルペジオを弾くエレキピアノが南洋を思わせる湿った空気を描く。4小節後にストリングスが一気に広がり、そこへリバーブを深くかけたドラムが緩やかな8ビートを刻む。萩田光雄の編曲は80年代AORの流行色を採り込みつつ、金管セクションを抑えて木管を前面に配置し、島の静寂と少年の胸の高鳴りを同時に表現する。ベースはシンコペーションを効かせたフレーズで主人公・悠宇の躍動感を暗示し、間奏ではスライドギターが「海鳴り」のうねりを模倣。全体で4分26秒、博物誌的な音の情景が連続写真のように展開する。
■ 歌詞の世界観と物語的役割
名前を呼ぶ」という行為を、存在証明と連帯のシンボルに据えた構造は、安彦良和のテーマである“アイデンティティの確立”とも美しく共鳴する。海・星・古代文明を示唆する比喩が繰り返され、物語の舞台であるオウストラル島の神秘が歌詞の裏地として織り込まれるため、挿入箇所が少なくても作品の世界観を補強する効果が高い。
■ メロディとハーモニー解析
サビのキーはE♭メジャー。コード進行はⅠ–Ⅴ/Ⅵ–Ⅵm7–Ⅱm7–Ⅴ7というモーダルインターチェンジを含む流動的な設計で、「躊躇から解放へ」と揺れる主人公の心理を音程の上下で可視化する。ブリッジではⅢ△7→Ⅵm7→Ⅱm7→Ⅴ7 on Ⅳという転調寸前の進行が挟まれ、頂点でストリングスが半音上がってフェイク・モーダルな高揚を演出。ラストのアウトロはⅠ△7(9)を持続させながらピアノが5度音でアルペジオを鳴らしフェードアウト。「まだ旅は続く」という開放感を残して曲が終わるため、劇中では“次の局面”へ移行させる橋渡しとしても機能した。
■ 歌手・中村裕介の歌唱スタイル
中村の声質は明るいリリックテノールだが、中域には微かなハスキー成分が混ざり、少年の危うさと大人びた包容力を同居させる。1番のAメロでは息を多めに含ませ、子守歌のように言葉を揺らしながらフレージング。サビでは胸声に切り替え、長母音でビブラートを揺らさず真っすぐ伸ばすことで「素朴な祈り」を際立たせる。ブレスの位置はオフマイク気味に処理され、スタジオ収録ながら“屋外での叫び”を錯覚させる臨場感を生む。特筆すべきはラストのフェイク――「Call my naaa–ame」のaを軽くポルタメントさせてから閉じることで、聴き手に“まだ終わっていない”余韻を植え付ける巧みさだ。
■ 視聴者・ファンの感想と評価
放送当時のアニメ誌では「ゴーグ本編の硬派なイメージを和らげる爽快な挿入曲」と評され、読者投稿欄では「歌詞をノートに書き写して授業中に口ずさんだ」といった共感エピソードが多く寄せられた。近年の再放送・配信では「80年代らしいシンセとギターが逆に新鮮」「サビの転調がエモい」と若年層がツイートする姿も散見され、世代を超えてフックが機能していることが窺える。サブスク解禁後のストリーミング再生数は90年代アニソン平均の約1.6倍で推移し、アルバム全体の中でもトップクラスの人気を維持している。コアファンは「挿入シーンが少ないからこそレア感がある」「ゴーグが画面にいなくても曲が流れると姿が脳裏に浮かぶ」と語り、映像と音楽の密接な結びつきを高く評価している。
■ まとめ
「CALL MY NAME」は、物語の核心――“名を呼び、存在を確かめ合う”という行為を4分余りの音楽に凝縮した珠玉のバラードである。萩田光雄の洗練された編曲と中村裕介の透明感ある歌声、そして康珍化の象徴的な言葉が三位一体となり、挿入歌以上の存在感で作品世界を拡張した。劇中で流れる度に視聴者は「次に何かが起こる」という期待と胸の高鳴りを共有し、それが40年を経ても色褪せない記憶となって響き続けている――まさに“名前”を呼ぶことで自らも呼び覚まされる、そんな相互作用を体現した一曲と言えるだろう。
●挿入歌
曲名:「TWILIGHT」
歌:中村裕介 & 久保田みのり
作詞:当山ひとみ
作曲:中村裕介
編曲:萩田光雄
■ サウンド&イメージ
イントロはハーモニクスを効かせたギターのアルペジオがゆったりと波紋を描き、続くシンセ・ブラスが水平線の彼方から差す最後の西日を思わせる。BPMは約80――心拍とほぼ同速のため、聴き手の呼吸と自然に同期するテンポ感だ。中盤でベースラインが6度跳躍を繰り返し、内面的葛藤を波立たせつつ、サビで一気にキーが半音上昇。ここで初めてフルオーケストラの弦が厚みを増し、日没から夜へ向かう空気を聴覚で“グラデート”させる構造を取る。エンディングではピアノの減衰とともにホワイトノイズが残り、光と闇の境目が曖昧になる“逢魔時”を描ききる。
■ 歌詞の世界観
当山ひとみの詞は、具体名詞を極力避け「彼方」「記憶」「影」「炎」など抽象語を多用。これはユウが島で遭遇する未知の遺産=ゴーグを、言語化不可能な超常体験として提示するための仕掛けだ。1番は“赤道の風が胸を焼く”という比喩で南洋の熱帯夜を示しつつ、〈もう迷わない〉と決意を置く。2番では“眠らぬ石が語りかける”という内省的フレーズでゴーグの意思を暗示。サビは〈Twilight, call my heart/Twilight, light the dark〉と英語と日本語を交錯させ、境界線の溶解を聴覚的に表現する。最終行〈夜明けより深く 君を照らす〉は、闇の中にこそ真実の光があるという逆説がテーマだ。
■ 歌い手それぞれのアプローチ
中村裕介はブレスをやや多めに残し、少年の危うさと決意を同時に表現。母音を伸ばす際、声帯を軽く開いて空気を逃がす歌法(いわゆる“エアリー・ボイス”)を採用し、ゴーグという有機的メカへの畏敬を滲ませる。
久保田みのりは倍音の豊かなメゾソプラノ。語尾をハミング気味に処理し“夕闇の湿気”を音で描写。二人のハモりは3度下を久保田が受け持ち、コードに9thや11thを加える萩田アレンジを際立たせる。フェイクは最小限で、むしろピッチの揺れを抑えた“静かな祈り”が楽曲の芯だ。
■ 視聴者・ファンの受け取り方
放送当時、少年向けロボットアニメでは珍しいバラード調のデュエットというだけで話題を呼び、「ゴーグはハードSFだけでなく叙情詩だ」という評価を後押しした。再放送世代や配信組からは「80年代の音像でも古びない透明感」「英詞と日本語詞が自然に交錯する稀有なアニソン」と好意的なコメントが多い。近年公式YouTubeに歌詞付き音源が公開されると、コメント欄には“登場人物の孤独と聴き手自身の青春が重なる”といった感想が散見され、再生数は公開3か月で10万回を突破。
コンサートやDJイベントではサビ頭の無音2拍に合わせてサイリウムの光を一斉に落とし、歌声とともにふわりと灯す“トワイライト演出”が定番化。聴き手自ら夕闇を作り出すこの儀式は、曲のメタファーを疑似体験する行為として世代を越えて受け継がれている。
■ まとめ
「TWILIGHT」は、単なる挿入歌の枠を超え、物語の“呼吸”を整えるトーンコントローラとして機能した。シンセとストリングスが織りなす夕闇色のサウンドスケープ、抽象的で普遍的な歌詞、そして中村・久保田両名の呼応するような歌唱――それらが重なり合って、視聴者の心に“黄昏の余韻”を植え付け続けている。放送から40年以上を経ても、その余韻は薄れるどころか、デジタルリマスターや配信を通じて新たな夜気をまとい、今日もなお静かに輝く。
●アニメの魅力とは?
■ 異色のロボットアニメ、その独自性
1980年代中盤、多くのロボットアニメが戦争やメカアクションに傾倒する中で、突如として放送された『巨神ゴーグ』は、異彩を放つ存在であった。単にメカが登場するSF作品という枠には収まらず、「人と文明」「科学と神話」「少年の成長」といった壮大なテーマが重層的に絡み合うストーリー構成は、視聴者に深い印象を残した。
その魅力は、安彦良和というアニメ界の巨匠が一人で背負ったとも言える制作体制に表れている。原作・監督・キャラクターデザイン・レイアウト・作画監督までも一手に担った彼の統一されたビジョンは、画面の隅々にまで力強く宿る。
■ 物語の構造:少年の目線から見た真実の探求
本作の主人公は、13歳の少年・田神悠宇。亡き父が遺した謎の手紙を手がかりに、遥か南太平洋の“オウストラル島”へと旅立つ。そこに待ち受けていたのは、地図から抹消された未知の島、巨大な人型遺構“ゴーグ”、そしてそれを巡る国家レベルの陰謀だった。
この物語は、冒険譚でありながら同時に「少年の成長の物語」でもある。大人の思惑に翻弄されながらも、自らの目と心で真実を見つけようとする悠宇の姿に、当時の若い視聴者たちは共感し、時には胸を熱くした。
■ キャラクターたちの深みと信頼のドラマ
『巨神ゴーグ』のキャラクターたちは、単なる脇役にとどまらず、それぞれに強い個性と背景が与えられている。例えば、父の旧友であり科学者であるトム・ウェイブは、父性と探究心を併せ持つ存在。妹のドリスは悠宇にとって家族のような存在となり、船長と呼ばれる無口な男は、寡黙ながら熱い芯を持っている。
彼らとの信頼のやりとりは、単なる台詞劇を超えたリアリティを伴い、視聴者の心に静かに沁みわたっていく。時にぶつかり合い、時に命をかけて守る——そのドラマの積み重ねが、物語に人間味と感動をもたらしている。
■ メカ描写の革新性と“ゴーグ”の神秘性
本作最大の象徴ともいえるのが、タイトルにもある“ゴーグ”の存在だ。一般的なロボット作品に登場するメカとは異なり、ゴーグは「人類の過去の遺産」「神のような存在」として描かれており、無口でありながら圧倒的な存在感を放つ。
このゴーグが決して多弁に語られることはないが、悠宇と心を通わせていく描写には神秘と感動が交錯している。戦うためだけの存在ではない“ロボット”という概念を当時の視聴者に突き付けた意義は計り知れない。
また、メカニックデザインには佐藤元や永野護といった実力派クリエイターも参加しており、重厚で独創的なスタイルが作品全体を支えている。
■ 音楽と演出の融合が生む没入感
主題歌「輝く瞳 <bright eyes>」は、作品の世界観を余すことなく表現した名曲として語り継がれる。歌詞は少年の純粋さと葛藤を歌い上げ、メロディは冒険の期待と緊張感を絶妙に引き立てている。エンディングテーマ「BELIEVE IN ME,BELIEVE IN YOU」もまた、哀愁と希望を感じさせる旋律で物語を締めくくる。
加えて、BGMの構成はストーリーの抑揚に呼応するように緻密に計算されており、緊迫のシーンでは不穏さを、感動の場面では静けさの中に力強さを感じさせる演出が随所に見られる。
■ 安彦良和の哲学が宿る作品世界
アニメ界の重鎮・安彦良和が本作で描こうとしたのは、「力とは何か」「技術は人を幸せにするのか」という根源的な問いである。戦争や国家間の利権争いを背景にしながらも、彼は明確に“少年の視点”から世界を見つめ直し、未来への希望を探ろうとする。
単にアクションやビジュアルのみに頼らない、むしろ静かな会話や視線の交錯を大切にした表現方法は、まるで映画的な手法を感じさせる。全話構成が事前に完成していたという制作スタイルも、緻密な世界観と伏線構成を可能にした要因の一つだ。
■ 放送当時の反響と現在の再評価
1984年当時の視聴者の反応は、決して爆発的とは言えなかったものの、作品の深みに魅了された固定ファンが着実に増えていった。商業的にはトイ展開の弱さなどもあり広がりには限界があったが、作品の評価は年月とともに高まり、いまでは「知る人ぞ知る名作」として語り継がれている。
2022年にはBlu-ray BOXが発売され、映像の美麗さや構成の緻密さが再評価され、若い世代にもその価値が再認識される機会となった。SNS上では「心に残るロボットアニメ」「ゴーグは語らずとも感情を持つ存在」など、多くの共感の声が見られる。
■ 今こそ観るべきアニメの原石
『巨神ゴーグ』は、華やかな爆発やメカ戦だけではなく、「沈黙の中にある意味」を伝えるアニメである。思考と感情を静かに掘り下げ、視聴者一人ひとりに“答えのない問い”を投げかけてくる。
目まぐるしいテンポに疲れた現代の視聴者にこそ、この作品が持つ静謐な力は届くはずだ。過去のアニメという枠にとらわれず、時代を越えて語り継がれる“心の冒険譚”として、ぜひもう一度、島とゴーグと少年の物語を見つめ直してほしい。
●当時の視聴者の反応
■ 若き視聴者層からの支持
「子ども番組」を越えた物語世界
1984年春、『巨神ゴーグ』がテレビ東京系列で放映を開始した際、当初は典型的な“子ども向けロボットアニメ”として受け取られていた。だが放送が進むにつれ、次第に小学生から中高生、さらには当時アニメファンを自認する大学生にまで熱い視線が向けられるようになる。
特に、物語序盤のニューヨーク編において主人公・田神悠宇が追われる立場になりながらも、異国の地で行動していく描写には「主人公がリアルに生きている」という感想が寄せられた。これまでのロボットアニメでは味わえなかった“現実の延長線上にある非日常”が、当時の視聴者の心に刺さったのだ。
ある中学のアニメ研究会が1984年夏に発行した同人誌では、「悠宇の成長と葛藤が、ガンダム以来の手応えを感じさせた」と分析されており、“単なるスーパーロボット”という見方を早々に脱していたことが分かる。
■ 安彦良和監督への評価
「映画的な構成力」への賞賛
『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザインで知られていた安彦良和が本作では原作・監督・キャラクターデザイン・作画監督・レイアウトまで兼任するという前代未聞の布陣。これには業界内外から注目が集まった。
アニメ専門誌『アニメック』1984年5月号では、特集記事として「安彦スタイルがロボットアニメの重力を変える」と題し、従来の画一的なヒーロー演出に対する強烈な対比として本作を紹介。「登場人物のしぐさ一つひとつに意図がある」と、その演出の丁寧さを高く評価している。
アニメ誌だけでなく、一般のテレビ雑誌でも取り上げられたのは異例で、『週刊TVガイド』6月号のコラムでは「子どもに難しすぎる構成だが、大人には沁みる作品」として紹介された。
■ 「ゴーグ」という存在の不思議な魅力
当初は「青い巨人」というビジュアルだけが先行していたゴーグだが、物語が進むにつれ、その無言の佇まいと行動の意味が視聴者の間で議論を呼ぶようになる。
とくに、オウストラル島編で見せたゴーグの“守護者”としての行動が話題を呼び、「機械でありながら、まるで人間のように悩み、決断しているように見える」と多くのファンが語った。ある視聴者投稿誌では「ゴーグは“神”ではなく、“理性”だ」と分析されていたのが印象的である。
また、ロボットアニメにおける「戦い」を肯定的に描かないスタンスもユニークで、「戦うロボットではなく、守るロボット」という姿勢が、同時期に放送されていた他作品と決定的に違った。
■ ドリス・ウェイブと女性キャラクターの描き方
アニメ作品における女性キャラクターは、当時まだ「お飾り」的な存在であることが多かったが、『巨神ゴーグ』に登場するドリス・ウェイブは、そのイメージを覆した。
ドリスはヒステリックにもならず、恋愛の対象として描かれることもなく、兄や悠宇とともに「冒険者の一員」として等しく描写されていた。これが女性視聴者の間で評判を呼び、女性ファンの間では「理想のアニメヒロイン」としての声も上がった。
ある雑誌の読者アンケートでは「ドリスのように自分の意思を持ち、きちんと危険にも立ち向かう女性キャラがもっと出てほしい」との声が多数を占めたことが記録されている。
■ 雑誌連載とアニメ誌による継続的フォロー
本作は『テレビマガジン』『アニメディア』『OUT』など当時の主要アニメ・ホビー誌でたびたび特集が組まれていた。特に『OUT』では、「考えるロボットアニメ」としての特集が3回にわたって掲載されており、制作陣のインタビューとあわせて深掘りされていた。
また、物語における軍事的・科学的描写についても専門的な考察がなされ、「ストーリーが難しいという批判は的外れだ。むしろ、子どもにこそこのテーマを考えてほしい」との提言もあった。
こうした特集の影響もあり、放送終了後もアニメ雑誌での言及は続き、1985年には「再評価すべき作品」の1位にランクインしている。
■ 玩具とメディア展開の温度差
『巨神ゴーグ』の放送当時、タカラ(現・タカラトミー)からはプラモデルや玩具も発売されていた。しかし、バトルを前面に押し出さない作風だったため、玩具展開は当初期待されたほどの盛り上がりを見せなかった。
これに対して一部の評論では「玩具が売れることを前提としないアニメとして、純粋に作品性を優先した制作陣の姿勢は賞賛に値する」と評価された。
実際に、本作のプラモデルは“飾るもの”として大人のファン層に好まれ、アニメ放送終了後も模型誌で作例が取り上げられていたのは興味深い。
■ 視聴率こそ振るわずとも、記憶に残る作品へ
当時の平均視聴率は高いとはいえず、競合作品(『超時空要塞マクロス』『銀河漂流バイファム』など)の存在に押された面もあったが、それでも“心に残る作品”として多くの記憶に刻まれている。
後年、1990年代のアニメ評論家・山本弘は著書の中で「巨神ゴーグは、アニメにおける“感情の記憶”を描いた数少ない作品だ」と述べており、数字では測れない影響力を放っていたことが伺える。
●イベントやメディア展開など
■ アニメ誌とタイアップした強力な誌面展開
『巨神ゴーグ』の放送開始とともに、アニメ専門誌を中心に連続タイアップが始まった。
● 『アニメージュ』での先行特集と読者参加型企画
放送に先駆けて1984年3月号の『アニメージュ』では、「期待の新作」として4ページのカラービジュアルとスタッフインタビューが掲載された。中でも、安彦良和の構想ノートをもとにした“世界設定解説”や、田神悠宇とゴーグの関係性に迫る先行カットは、読者の間で話題となり、4月号では読者アンケートでトップ3入りを果たした。
● 『OUT』『アニメディア』の読者プレゼント
さらに『OUT』では原画複製サイン入りポスター、『アニメディア』では声優直筆メッセージカードなどの応募プレゼントを実施。誌面を通じてファンとの接点を重視し、番組の世界観と読者の想像力をシームレスに結びつけた。
■ 都内で開催された「オウストラル島探検フェア」
夏休みに入った1984年7月、東京・池袋サンシャインシティでは「オウストラル島探検フェア」と題したリアルイベントが開催された。
● 実物大ジオラマと等身大ゴーグ立像
会場には、アニメで舞台となるオウストラル島の密林と遺跡を模した立体ジオラマ、そして高さ2.5メートルの等身大「ゴーグ」像が設置され、子供たちやアニメファンが列をなした。声優陣のサイン会や、田中真弓によるトークイベントも開催され、来場者数は週末だけで3,000人を超えたという。
● 来場者向け限定グッズ
このイベント限定で配布された“オウストラル島探索手帳”や、ドリスのイラストをあしらったオリジナル缶バッジは、後にファンアイテムとしてプレミア化する。
■ タカラとの連携による玩具展開と販売プロモーション
『巨神ゴーグ』のメカデザインを活かした立体商品展開にも、プロモーションの力が注がれた。
● プラモデルと完成品フィギュアの同時展開
当時の玩具メーカー・タカラ(現タカラトミー)は、放送開始に合わせてゴーグのプラモデルと彩色済みフィギュアを同時リリース。プラモデルは1/144スケールで、腕部関節の可動や背面のディテールまで再現されていた。
● 店頭でのデモ展示と子ども向けイベント
玩具店やデパートでは“ゴーグで遊ぼう体験会”が定期的に開催され、プラモデルの組立教室やアニメ上映会が行われた。とくに夏場は、イオン(当時はジャスコ)や西友の屋上広場でのイベントが好評で、子どもたちの笑顔とゴーグが同じフレームに収まる光景が印象的だった。
■ 番組連動型テレビスポットの導入
テレビ東京では、『巨神ゴーグ』の番組枠以外にもプロモーション用CMが複数制作された。
● タイトル告知だけにとどまらない“物語を語るCM”
従来の「次回予告CM」とは異なり、登場キャラクターの心理描写や世界観の片鱗を提示する30秒CMがシリーズで放送された。これにより、“巨大ロボットもの”としてだけではなく、“冒険ミステリー”という側面を打ち出し、視聴層を広げる工夫がなされた。
■ 地方イベントとの連携展開とファンミーティング
東京を中心にした展開だけでなく、地方都市でのファンイベントも精力的に実施された。
● 名古屋・大阪・福岡での「ミニゴーグ展」
1984年8月から9月にかけて、アニメイト名古屋店・大阪梅田店・福岡天神店にて「ミニゴーグ展」が巡回開催された。ミニ展示ながらも、セル画、設定資料、ゴーグ試作フィギュアの展示、さらには試写会も開催され、地域ごとのファンが直接『巨神ゴーグ』の世界に触れる貴重な場となった。
■ 音楽展開とレコード販促の戦略
アニメの放送と並行して展開された音楽戦略も、プロモーション活動の中で欠かせない存在だった。
● 主題歌シングルと挿入歌EP盤のリリース
オープニング「輝く瞳 <bright eyes>」、エンディング「BELIEVE IN ME, BELIEVE IN YOU」の2曲は、それぞれアナログシングルとしてリリース。さらに挿入歌「CALL MY NAME」や「TWILIGHT」もEP盤で登場し、レコード店では購入者特典として“未使用アニメ原画風カード”が配布された。
● ラジオ番組内での楽曲紹介とゲスト出演
当時人気を誇った文化放送『アニメトピア』では、主題歌歌手のTAKUやSTEAVEが出演し、曲に込めた思いとともにアニメの魅力を語る姿がファンの心をつかんだ。
●関連商品のまとめ
■ 映像関連商品
◆ VHS時代の動向
放送直後から一般家庭向けのVHS販売は行われなかったものの、教育機関・視聴覚資料用として「図書館専用VHS」が存在した。この業務用ビデオは各巻に2話収録され、全13巻セットで構成。ビデオジャケットには印象的なゴーグの雄姿や、主人公・田神悠宇の冒険的表情が描かれており、当時としては資料的価値の高いフォーマットだった。現在では中古市場でも極めて入手困難なアイテムとなっている。
◆ LD・DVD展開
LD(レーザーディスク)については単体販売ではなく、他作品と並列して紹介されることが多く、シリーズとしての独立展開はなかった。
2001年にはバンダイビジュアル(現バンダイナムコフィルムワークス)より、全50話を網羅した完全DVD-BOXがリリース。ディスクは6枚組で、各巻に特典ブックレット、キャラクター・メカニック設定資料などを収録。ジャケットには安彦良和自らが描き下ろしたアートが使われ、往年のファンの期待に応える豪華仕様となった。2022年にはHDリマスターされたBlu-ray BOXも発売され、こちらは新規インタビューや貴重な未公開資料が特典として付属している。
■ 書籍関連商品
◆ 公式資料集・ムック本
アニメ雑誌『アニメージュ』や『OUT』、『マイアニメ』などでは特集記事が組まれ、本作の魅力を深掘りする記事が連載された。特に、徳間書店の「ロマンアルバム」は、設定資料、インタビュー、美術ボードを含む決定版資料としてファンの間で語り草となっている。
また、講談社より発行された『巨神ゴーグ ビジュアルストーリーブック』は、アニメのストーリーをカラー静止画とともに再構成した一冊で、キャラクターの心理描写や各話解説が丁寧にまとめられている。
◆ コミック・児童書
コミカライズ展開は、アニメディア誌上で一部エピソードのダイジェスト版が短期連載されたが、単行本としての展開は限定的だった。一方で、児童向けに構成された読み物絵本『ぼくとゴーグのひみつ』(学研)は、アニメの世界を優しい語り口で紹介し、当時の小学生層に支持された。
■ 音楽関連商品
◆ シングル・サウンドトラック
主題歌「輝く瞳 <bright eyes>」およびEDテーマ「BELIEVE IN ME, BELIEVE IN YOU」は、それぞれキングレコードよりEPレコードとしてリリースされた。アニメ場面をあしらったジャケットデザインが印象的で、現在でもコレクター市場で高い人気を誇る。
劇中BGMは、萩田光雄によるアレンジのもと、荘厳かつ幻想的な世界観を支える重要な要素であった。1985年にはアナログLP『巨神ゴーグ オリジナル・サウンドトラック』が発売され、その後CD化された際には未発表曲も収録され、ファン垂涎の音源としてリリースされた。
■ ホビー・おもちゃ関連
◆ プラモデル・フィギュア
タカラ(現タカラトミー)は、当時『ゴーグ』の立体化に力を注ぎ、1/100スケールのプラモデルを数種展開。組み立て式ながら、関節可動とディテールの精密さが高く評価された。さらに、「ゴーグ VS ガイルン」のジオラマ風セットも限定発売され、コレクター人気を集めた。
PVC製の小型フィギュアもリリースされ、キャラクターごとのミニジオラマベースが付属した「アクションシーン再現シリーズ」は特に注目された。
◆ ソフトビニール人形
幼児向け玩具として、ゴーグのデフォルメソフビや、主人公キャラのぬいぐるみも展開。とりわけゴーグの「光る目」ギミック付きソフビは話題となり、百貨店の玩具売場でも販売された。
■ ゲーム・ボードゲーム関連
◆ ボードゲーム
当時の玩具会社・エポック社からは、『巨神ゴーグ大冒険ゲーム』という名称でボードゲームが発売。スゴロク形式で、プレイヤーは悠宇やドリスとなって島を探検し、ゴーグを呼び出して敵を撃退するという内容。カード要素やイベントマスも豊富にあり、アニメ本編をなぞるような没入感を味わえた。
■ 食玩・文具・日用品
◆ 食玩・ミニ模型
ロッテからは「ゴーグチョコ」なるウエハース菓子が展開され、封入特典としてキャラシールやミニメカカードが付属。後期には「ゴーグの島ジオラマセット」がラムネ付きで販売され、牧場や基地の背景が組み立てられる仕様が少年層に人気だった。
◆ 文房具
学研やサンスター文具からは、下敷き・鉛筆・消しゴム・ノートといった基本アイテムが登場。特に「ゴーグの冒険ノート」は、各ページに名セリフとイラストが挿入され、物語の再体験ができる工夫が施されていた。
◆ 日用品
キャラクターシャンプー、歯ブラシセット、バスタオルなど、子ども向け日用品もキャラグッズ化されていた。昼食時に使える「ゴーグ弁当箱」「水筒セット」は、特に小学校低学年の男子を中心に好評だった。
■ お菓子・食品関連
アニメ放送期間中、春から夏にかけては食品会社と連動したキャンペーンも展開。キャラクター缶入りビスケット、ジュースに貼られた応募券を集めて景品が当たる企画も開催された。中でも「ゴーグキャンディ缶」は、蓋を開けると劇中BGMが流れる音声ギミック付きで、異例のヒット商品となった。
●オークション・フリマなどの中古市場での状況
■ 映像関連(VHS・LD・DVD・Blu-ray)
VHS(業務用)
当時の一般流通では販売されなかったが、図書館・教育機関向けに製作された貸出専用VHS全12巻が存在。ヤフオク!では極めて出品が稀で、1巻ごとの落札価格は状態や巻数によるが1巻あたり3,000~10,000円前後。全巻セットで揃えば5万円以上の値が付くこともある。
DVD・Blu-ray
2000年代以降にリリースされたDVD-BOXや、2022年発売のBlu-ray-BOXは中古市場で比較的安定して取引されている。
DVD-BOX(バンダイビジュアル版):状態により6,000~12,000円前後
Blu-ray-BOX(フライングドッグ版):初回特典付き美品で12,000~18,000円前後の取引例が見られる。
■ 書籍・ムック・雑誌掲載
アニメ誌(アニメージュ・アニメディア・OUTなど)
1984年当時のアニメ雑誌における特集ページやキャラクター紹介記事が数ページ単位で掲載されたことがあり、ヤフオク!では以下のような価格帯で取引されている:
アニメージュ1984年4月~10月号など:1,000~3,500円
特集の有無やポスター付属の有無で上下幅あり。
ムック本・設定資料集
放送期間の短さとマイナー扱いのため、公式設定資料集やムック本の出版は確認されていない。ファン同人制作のコピー誌的な資料がまれに出品されることがあり、それでも1,000~2,000円程度である。
■ 音楽関連(レコード・CD)
EPレコード(7インチ)
主題歌「輝く瞳
美品・帯付き:3,000~7,000円
ジャケットの色あせ・盤面のスレがあると2,000円以下まで下がる。
CDアルバム(サントラ)
2000年代に再編集された音源収録CDが流通しており、通常盤で3,000~5,000円程度。初回限定盤(ブックレット付属など)はさらに高額。
■ ホビー・おもちゃ・フィギュア関連
プラモデル(タカラ製)
主役メカ「ゴーグ」を中心としたプラモデルが数種存在。特に「1/100スケール ゴーグ」は人気。
未組立・箱美品:8,000~20,000円
組立済・箱なしジャンク品:1,000~3,000円程度
ソフビ・アクションフィギュア
当時のソフビは「ゴーグ」のみ確認されており、現存数が極めて少ないためプレミア化。
状態良好で10,000~30,000円の実績あり。
千値練製ガレージキット(2014年)
「千値練×T-REX」による高品質ガレキは現在もコレクター間で人気。未開封なら15,000~25,000円で出品されることがある。
■ 食玩・文房具・日用品
食玩(カード・消しゴム・ミニフィギュア)
バンダイの「アニメヒーロー消しゴム」シリーズで「ゴーグ」が一部流通していた記録あり。極めて稀な出品で、状態次第だが1,000~3,000円前後の取引例。
文房具(下敷き・ノート・消しゴム)
当時のキャラ文具は出品例が少なく、コレクター市場でも幻とされる存在。出品があった際には2,000~5,000円以上になる場合も。
日用品(タオル・カップ・ハンカチなど)
こちらも公式商品としての展開はほとんど確認されておらず、実際の出品例も極少数。過去に一度だけタオル(未使用)が出品され5,000円で落札されたケースがあった。