
【漫画全巻セット】【中古】ふたり鷹 <1〜19巻完結> 新谷かおる





【アニメのタイトル】:ふたり鷹
【原作】:新谷かおる
【アニメの放送期間】:1984年9月27日~1985年7月12日
【放送話数】:全36話
【総監督】:四辻たかお
【脚本】:四辻たかお、高屋敷英夫、渡邊由自、平野靖士、富田祐弘
【キャラクターデザイン】:村田四郎
【メカニックデザイン】:中西明、杉山文吾
【音楽】:久石譲
【作画監督】:八幡正、谷口守泰、西田完、あづまひろし、山川英次 ほか
【美術監督】:勝又激
【制作】:国際映画社、フジテレビ
【放送局】:フジテレビ系列
●概要
■ バイクに生きる、ふたりの少年の物語
1984年秋、フジテレビ系列で一風変わった青春アニメが幕を開けた。その名も『ふたり鷹』。バイクレースという専門性の高いジャンルを中心に据えながら、スポーツの枠を越えて友情、葛藤、恋愛、そして死と再生のドラマを描き出すこの作品は、当時の視聴者に強烈な印象を残した。
本作は漫画家・新谷かおるの代表作のひとつを原作にしつつ、アニメならではのオリジナル要素も加えられた意欲的な作品である。しかし、制作を担っていた国際映画社の倒産という不運により、物語は途中で放送打ち切りを迎えてしまうという残念な運命をたどる。それでも、作品が遺した熱量と疾走感は、今もなお語り継がれている。
■ 原作の魅力を引き継いだアニメ化
原作は新谷かおるによる青年漫画で、単なるレース漫画にとどまらず、家庭の事情、社会との摩擦、愛憎入り乱れる人間模様が複雑に絡み合っている。アニメ版では、原作の構成を基盤にしつつも、映像ならではの演出とテンポの良さで視聴者を引き込んだ。
特に注目すべきは、登場人物たちの心理描写に対する丁寧なアプローチである。ライバル同士でありながら互いを認め合う鷹と鷹(名前を同じくする主人公2人)の葛藤や、彼らを取り巻く人々との関係性がドラマチックに描かれていた。
■ “二輪レース”という挑戦的な主題
当時のテレビアニメでモータースポーツ、それも二輪の耐久レースをメインテーマに据えるのは極めて珍しかった。アニメーションの作画面においても、スピード感や重量感の再現は難題だったが、本作はバイクの挙動や音、疾走するライダーたちの緊張感をリアルに表現することに挑んだ。
また、単に技術的な競争だけではなく、チーム戦における連携、ドライバーの精神力、マシンの限界をどう超えるかといった、人間性と機械とのせめぎ合いが熱く描かれたことも特徴だ。
■ 笑いと涙、恋と死を交差させたストーリー展開
本作は一貫してシリアス路線を突き進むわけではなく、コメディ的な要素やラブストーリーもふんだんに盛り込まれていた。ドタバタ劇のような学園生活の描写もあれば、淡く切ない恋愛模様が展開する回もある。バイクだけではなく、「青春」という切り口での物語展開も視聴者の共感を呼んだ。
一方で、突如として訪れる登場人物の死や、家族の確執など、暗く重たいテーマにも躊躇なく踏み込んでいった点は当時としては大胆だった。見る者の心に深く爪痕を残すエピソードが散りばめられており、ただのスポーツアニメに留まらない懐の深さがあった。
■ 中途で終焉を迎えた未完の疾走
アニメは1984年9月からスタートし、1985年7月までの放送を予定していたが、途中で制作元の国際映画社が経営破綻。そのため、予定していたエピソードが描かれないまま物語は中途で終わってしまう。
特にファンの間で惜しまれたのは、モトクロス編の導入が予告されながら、実際には実現されなかった点だ。この展開は原作にはないアニメオリジナルの方向性として注目されていたが、打ち切りによって未製作のままとなってしまった。
■ 映像メディアとグッズ展開の側面
当時、アニメの初期エピソードを再編集し、数シーンの追加カットを施したビデオが東芝ビデオより全1巻で販売されたが、それ以降、DVD化やBlu-ray化といった映像ソフトの展開は行われていない。2025年現在においても再放送や配信での視聴は困難であり、「幻のアニメ」として語られることもある。
一方で、タイアップ商品は展開されており、特に有井製作所(現アリイ)から販売されたプラモデルはコレクターの間で話題を呼んだ。主人公たちが搭乗するバイクのデフォルメモデル、さらにはヒロイン・沢渡緋沙子の愛車コルベットなども製品化され、当時の玩具市場では珍しい“バイク系アニメの立体物”として一定の存在感を放っていた。
■ 音楽と演出が紡ぐ熱き世界
本作の音楽面も語らずにはいられない。オープニング・エンディングを含めたBGMには疾走感と哀愁を併せ持つ旋律が用いられ、映像と見事にシンクロしていた。特にレースシーンの演出は、音楽による緩急の演出が絶妙で、アニメーションの迫力をさらに引き立てていた。
また、キャラクターたちの心理描写に対しても劇伴音楽が効果的に使われており、視聴者の感情移入を高める構造が随所に見られた。
■ 今なお熱く語られる“未完の名作”
打ち切りという形で物語が終幕したことは残念であったが、それがかえって『ふたり鷹』という作品に“未完成ゆえの美学”を与えているともいえる。視聴者が自由にラストを想像し、自分なりのエンディングを描ける余地があるという点に、独特の余韻がある。
現在では、原作漫画の再評価が進み、アニメ版もその一環で再注目されている。完結していないからこそ、語り継がれ、熱い議論の対象となり続けている稀有な作品なのである。
■ ふたりの鷹が残した風の軌跡
アニメ『ふたり鷹』は、レースという舞台を通じて、疾走する若者たちの魂の叫びを描いた物語である。スピード、汗、友情、別れ、夢──それらすべてが複雑に絡み合い、画面の向こうでほとばしっていた。
たとえ物語が完結しなかったとしても、そこに込められた想いは、確かに多くの人の心を走り抜けていった。今もどこかで、ふたりの鷹は風を切って走り続けているのだ。
●あらすじ
■ 悠久の“鷹”たち
運命の出会い
同じ日、同じ病院で生まれた“不思議な縁”を持つ二人──
高校生の 沢渡鷹 は、美容師として成功を収めた母・緋沙子のひとり息子。ストリートを自在に駆けるローリング族との抗争や峠でのスリルに命をかける“野生児”。
一方、東条鷹 は名門東条家の御曹司で、生粋のサーキットライダー。理知的で冷静、レーシングチームに所属し、バイクを“完璧”に操る職人肌の若者。
ある晩、緋沙子と帰宅途中、沢渡親子は暴走族に襲われるが、そこに現れたのがクールな人工美をまとった神秘のレーサー──東条鷹だった。運命の出会いと同名の不思議に、まだまだ二人の人生は交差し始めたばかり──。
■ 野生と理性、峠とサーキットの狭間で
翌日、沢渡は奥多摩の峠で「伝説のもう一人の“鷹”」と噂されるライダーとバトル。同じ名前ゆえ刺激的だが、圧倒的に速く冷静だったその相手──東条との再会に胸が高鳴る。
後に二人は筑波サーキットでも邂逅し、沢渡は数秒差で敗北。だが東条の姿に憧れ、サーキットデビューを目指す。“野生”に“理性”が加わった時、沢渡の可能性は突然開いた。
■ 競り合う青春
大学と仲間たち
勉強嫌いながらも国立大学に進学した沢渡は、妹のような遠縁・明美とともに自動車(二輪)部へ。明美もライダーとして活躍し、3人で技術と夢を追う日々に。
やがて鈴鹿4時間耐久で初レースを経験。メカトラに苦しみながらも仲間とのチーム戦、勝利への渇望が強まる。ライバルたちも登場し、耐久戦の厳しさと駆け引きの深さを知る――この辺りで“仲間の絆”と“競争心”が交錯。
■ 母・緋沙子の異色舞台
スポンサーとして参戦した緋沙子は、腕利きの美容師でありながらトラックドライバー経験も有する異色の女性。かつてはマシンも振るった“隠し子”のエピソードも。
彼女が参加した「競走技世界一決定戦」では、母としてのプライドとライダーとしての情熱がぶつかり、沢渡と共に走るシーンが感動的。彼女の勝負師としての才覚は、物語の核でもある“母と子の奇妙な依存と自立”を浮き彫りにする。
■ 友情・恋・ライバル
大学生活も一段落し、次は本格的レースの舞台へ。そこに現れた パトリシア・ウェラー(通称パット) は全米F2チャンピオン。明るく才媛な彼女は緋沙子と友人となり、日本に語学留学・転入。沢渡と恋に落ちるが、抱える過去の傷や家族への複雑な感情が交錯。立ち直り、婚約に至るまでの成長ドラマは、単なるスポーツマンガの枠を超える人間ドラマに昇華する。
一方、東条鷹 は英国チームに移籍。そこで出会った女性ライダー マリー・クレール・ベルモ と徐々に惹かれ合い将来を誓う。しかし結婚式当日、交通事故で命を落とす──この事件が東条を強く揺さぶる。彼女への未練と共に「自分は何のために走るのか?」を深く問い直す。
■ 本格・世界への挑戦
「Battle Hawk」の誕生
ふたりの鷹がそれぞれのキャリアを積む中、両者の最高峰挑戦は「世界耐久選手権」へ。三輪駆動ならぬ“前後輪動力伝達”という画期的マシン「Battle Hawk」を、天才エンジニア明美が設計開発。これはF1にも匹敵する技術革新で、ふたりの夢を乗せた特別なプロジェクト。
チーム員にはGPから鞍替えしたエリック・タイラーやマイケル・ハミルも加わり、世界最高速度と耐久力が試されるボルドール24時間レースへと向かった。
■ 栄光と悲劇の24時間、自分vs自分
フランス・ポールリカールで始まる24時間レースはまさに過酷。緋沙子やパットも車で参戦し、激しく順位変動。途中、東条は大クラッシュしながらも奇跡の復帰を果たす。タイヤ無交換、長いピット作業、そして夜明け──。
ラストコーナー、消耗と精神の限界で苦しむ東条を支えたのは、亡きマリーの幻影。彼女の笑顔が導きとなり、東条は冷静さと熱意を取り戻す。トップで最終ラップを駆け抜けるマシンに、人々は感涙。
そしてチェッカーフラグ──【ふたりの鷹】が世界に冠を打ち立てた瞬間だった。
■ 続く絆
エピローグと人生の選択
勝利後のエピローグでは、沢渡とパットが結婚式を挙げ、母・緋沙子が待望のウェディングドレスを纏うドラマティックな場面も。東条はマリーへの想いを胸にサーキットに復帰。妹・美亜は音楽留学し、大人への階段を上る。
二人はついに、名前だけでなく真の「同志」「兄弟」として、生き方を選び、世界の頂点を目指し続ける。最後には同じチームに鷹が二羽──永遠のライバルであり、最強のパートナーとして走り続ける姿が描かれて幕。
●登場キャラクター・声優
●沢渡 鷹
声優:古谷徹
都会のストリートを駆け抜けていた粗削りなバイク使いが、ライバル・東条鷹との出会いを経てプロレースの世界へ飛び込む。母・緋沙子に可愛がられつつ育った“マザコン気質”の少年で、大げさかつ照れ屋な一面をもち、義母との掛け合いからも愛されるキャラ。野性的な直感に頼って走るスタイルは、時に緻密さを極める東条をも食うほど。出生にまつわる秘密が後に明かされ、自分が母の本当の息子でない可能性を知るまでには成長を遂げる。最終回では、人生の伴侶・パットと結婚し新たな一歩を踏み出す。
●東条 鷹
声優:塩沢兼人
知性と冷静さを武器に、自在にマシンをコントロールする“クールな天才ライダー”。大手自動車会社社長の息子で、家庭は父・妹との三人暮らし。表情の奥底に潜む感情は少なく、だが母性溢れる緋沙子が登場すると感情のバランスが揺れる。マシン開発やチーム運営にも関わる才覚を見せる一方、幼少期の火災事故が引き金で炎を目前にするとパニックに陥る弱点をかかえる。婚約者のマリーを結婚式目前に失ったことで決心を固め、世界耐久レースへ再挑戦を宣言する。
●沢渡 緋沙子
声優:藤田淑子
火事で夫を亡くした後、子育てと仕事を両立するタフなシングルマザー。かつてはトラック運転手として生計を立て、美容師として独立後は芸能界にも多くの顧客を持つ人気者。英語・フランス語に通じ、自らも撮影用ライダーとしてマシンを操るなど、男顔負けの運転スキルを体得。強気な“姐御肌”と、ひそかに見せる繊細な感情のバランスが魅力。息子の結婚式では、自身の“ウェディングドレス願望”も晴らす幸せを迎える。
●花園 明美
声優:内海賢二
その“女性らしからぬ名前”とは裏腹に、実は男性であり、首都圏の名門大学を目指す才子。外見はカッパ頭で老けて見えるが、澤渡家に居候していた大学受験期から鷹らと同い年。のちに二輪駆動バイク「バトル・ホーク」を開発するほどの天才エンジニアとしての異才を示す。山育ちで体力にも優れ、時にはマシンを担いで走る体力派でもある。
●パトリシア・ウェラー
声優:富沢美智恵
アメリカの大富豪一族・ウェラー家の娘で、F2レースの全米チャンピオンに君臨する華やかな女性。表向きには明るく陽気だが、家庭環境に深い悲しみと絶望を抱き、自ら命を絶つ計画まで立てていた。だが緋沙子の母性に触れ、人生を再起。一度和解した後は日本に再来し、編入先の大学で沢渡家に居住、やがて沢渡鷹と恋に落ち、婚約。最終回では彼とともに結婚し、未来への希望をつかむ。
●東条 美亜
声優:三浦雅子
東条家の一人娘で、兄・東条鷹への強い愛情ゆえの“ブラザーコンプレックス”持ち。暴走族に絡まれていたところを沢渡鷹に助けられたことをきっかけに、淡い恋心を抱く。だが物語中盤で、兄と鷹の出生にまつわる“取り違え事件”を知り、心が揺れる。後半ではパットや緋沙子を姉のように慕うようになり、兄への想いを改めて自覚していく存在です。
●主題歌・挿入歌・キャラソン・イメージソング
●オープニング曲
曲名:「ハートブレイクCrossin’」
歌唱:陣内孝則
作詞:売野雅勇
作曲:芹澤廣明
編曲:芹澤廣明
■ 楽曲の持つ世界観とイメージ
『ふたり鷹』というタイトルにふさわしく、交わりながらも決して完全に重ならない二人の若者の宿命的な関係を象徴するような一曲、「ハートブレイクCrossin’」。この楽曲は、疾風のように始まり、熱を帯びたまま終わる、まるでレーストラックを駆け抜けるマシンのような勢いを持ったロック・ナンバーである。
“Crossin’”とは交差点。しかも、それは「ハートブレイク(心が砕ける)」を伴うもの。すなわち、ただの出会いや別れではなく、激しく、時に痛みを伴う感情のぶつかり合いを想起させるタイトルだ。この「交差点」は、青春の真っ只中に立たされる沢渡鷹と東条鷹、ふたりの「鷹」が、それぞれの道を突き進みながらも交錯し、衝突し、理解しようとする過程そのものである。
■ 歌詞の構造とテーマ
売野雅勇による作詞は、端的でありながら情感に満ち、鋭く心を射抜いてくる。特に印象的なのは、都市のネオンに例えられた“夢”や、“アクセルを踏み込むほどに壊れていく感情”というような表現。これらは、ただレースというスポーツを描写するのではなく、それを人生や愛情の比喩として再構築している。
楽曲の歌詞には、「真っ直ぐに走ることの危うさ」や「速さと引き換えに失われていくもの」、そして「一瞬の煌めきに賭ける熱さ」といった、10代後半から20代前半の若者が抱く切実な葛藤がにじんでいる。夢に向かって走ることと、恋や友情がぶつかること、そのどちらを選ぶべきか揺れる心理を、幾重にも折り重ねた詩的表現で描いている。
サビ部分では、“交差点”で迷う心を一気に開放するようなメロディと共に、感情が燃え上がるように歌われる。この歌詞構成が、まるでコーナーを曲がった先でスピードを上げるライダーの姿とリンクするようだ。
■ メロディとサウンドの特徴
芹澤廣明による作曲・編曲は、ドラマティックでストレートなエレクトリックギターのリフを前面に押し出しつつ、シンセサイザーとドラムの組み合わせで80年代のシティロック的な雰囲気を醸し出している。冒頭のギターは、緊張感と解放感を同時に引き起こすコード進行となっており、そこに重なるビートが加速感を演出する。
AメロからBメロにかけてはやや哀愁を帯びた旋律が流れ、まるで何かを振り返るような表情を見せる。しかしサビに入ると、それまで抑えていた感情が一気に放たれるような構成になっており、リスナーの胸を締め付けていた想いが、前方へ突き抜けていくような爽快感を与える。
この構成は、まさに「ふたり鷹」のレース展開と重なり合う。葛藤から疾走へ、そしてまた新たな壁へ——その繰り返しが曲調にも見事に表現されている。
■ 陣内孝則のボーカル表現
歌手としても俳優としても多才な陣内孝則が、この楽曲に吹き込んだ情熱は、まさに“火花”という言葉がふさわしい。張りのある声質、ややハスキー気味のトーン、そして語尾を強く叩きつけるような歌い方が、曲の持つ熱量をさらに高めている。
彼のボーカルは、ただの“歌唱”にとどまらず、まるで主人公・沢渡鷹そのものが歌っているかのような臨場感を帯びている。怒りや焦燥、決意や悲しみなど、言葉にしきれない感情のひだを、声の強弱や揺れによって巧みに演出している。
特に、「もう引き返せない」というようなニュアンスが込められたフレーズでは、リスナーの背中を力強く押すような感覚を覚えるだろう。
■ アニメとの親和性と視聴者の反応
『ふたり鷹』という作品のオープニングに、この曲以上にふさわしい楽曲があっただろうか。映像では、ライダーたちがバイクで火花を散らしながら競り合う様が描かれるが、「ハートブレイクCrossin’」のサウンドがそこに重なることで、ただのレースアニメではない“感情の物語”としての魅力が際立つ。
視聴者からは、「曲が流れるたびに胸が熱くなった」「青春が凝縮された一曲」「あのイントロを聴くだけで、バイクのエンジン音が聞こえてくるようだ」といった声が多く寄せられていた。また、陣内孝則のファンからも「俳優としての顔とは違った一面が見られる名曲」として高く評価されている。
●エンディング曲
曲名:「サヨナラを言わないでくれ」
歌唱:陣内孝則
作詞:売野雅勇
作曲:芹澤廣明
編曲:芹澤廣明
■ 曲に込められた感情の設計図
アニメ『ふたり鷹』のエンディングに使われた「サヨナラを言わないでくれ」は、疾走するオープニングとは一転して、静けさと切なさに包まれた一曲だ。この楽曲は、まるで夕暮れに一人たたずむライダーの背中のように、孤独と余韻をまといながら、物語の余白を静かに彩る。
タイトルに込められた“サヨナラを言わないで”という願いは、青春の終わりを拒む切なる心情、そして去りゆくものへの未練や愛着を象徴している。誰かとの別れが避けられないとき、それでも「別れたくない」と思う気持ちは、視聴者の心にも深く刻まれた感情だろう。
この曲は、ただ「終わる物語の余韻」ではなく、「終わらせたくない心」の表明として存在している。エンディングに流れることで、“別れを受け入れながらも抗いたい”という、複雑で繊細な感情が作品の背後ににじみ出る。
■ 歌詞の構成と詩的な風景
売野雅勇のペンによる歌詞は、装飾を削ぎ落とした言葉の中に、情熱と不安、祈りと諦めが折り重なる、静かでいて情熱的な詩的世界を描き出す。
冒頭では、何気ない日常の一コマが描かれているが、それは過ぎ去ってしまった幸福の記憶であり、今は戻らぬものとして胸に刻まれている。歌詞の随所に散りばめられた「君」「風」「夜」などの言葉は、具体的な状況というより、情緒や気配を描くための道具として巧みに使われている。
特に印象的なのは、サビに込められた“言わないでくれ”という繰り返しだ。それは単なる懇願ではなく、自らの中にある弱さを認めるような響きを持っている。この歌詞を通して描かれるのは、言葉にすれば崩れてしまいそうなほど繊細な「つながり」への執着であり、作品を観た者すべての胸を打つ“別れの予感に抗う魂のうた”となっている。
■ サウンドと編曲の情感
芹澤廣明の手によるメロディとアレンジは、洗練されたバラード調でありながら、どこか乾いた質感をもつギターと、柔らかなストリングスが調和する構成になっている。
前奏は静かで、まるで遠くに沈む夕日を見つめるような情景を思わせる。続いて入るメロディラインは、シンプルでありながら哀愁があり、聴く者の心の奥底をそっとノックしてくる。特筆すべきは、中盤のギターソロが描く感情の高まりだ。それは叫びにも似た寂しさであり、別れを言葉にする代わりに、音がその役割を担っているようにも感じられる。
全体的なサウンドバランスも絶妙で、ボーカルを引き立てるために過度な装飾を避け、余白の中に聴く人の想像を委ねるスタイルが徹底されている。そこには、80年代のバラード特有の哀愁とロマンがしっかりと息づいている。
■ 陣内孝則のボーカルアプローチ
俳優でありながらアーティストとしての表現力も兼ね備える陣内孝則は、このバラードにおいて、その“声”だけで物語を語り切る力を発揮している。
彼の歌い方は、まるで台詞を語るかのように一音一音に感情を込め、無理な技巧に頼らず、直球で感情を届けてくる。言葉を絞り出すような低音、そして思い切って上げた高音では、心のひだが剥き出しになったような表現が感じられ、聴く者の感情を揺さぶる。
特に、サビに向かって盛り上がる部分での声の張り上げは、誰かに届いてほしい、言わずにはいられないという切実な衝動を感じさせる。そのボーカルは、聴く人の心に傷跡を残すほどの説得力をもって、強く深く刺さってくるのだ。
■ 視聴者・ファンからの受け止め方
『ふたり鷹』をリアルタイムで観ていた視聴者たちの中で、このエンディング曲に心を奪われた人は少なくない。
「一日の終わりにふと口ずさんでしまうメロディ」「別れを言えなかったあの頃の気持ちが甦るようだ」「ラストシーンにこの曲が流れると涙腺が緩む」――そんな声が、放送当時のファンのみならず、後年に再視聴した世代からも多数寄せられている。
さらに、陣内孝則という存在を通して、アニメの世界が一段階リアルに近づくような感覚を覚えた人も多かった。キャラクターが画面から出てきて自分に語りかけてくるかのような錯覚を、この歌が与えてくれたのだ。
■ 別れではなく余韻として
「サヨナラを言わないでくれ」は、ただの別れの歌ではない。それは、“まだ終わらせたくない物語”を生きる者たちの、静かなる祈りである。
バイクレースという激動の世界で、命を削って走り続ける青年たちの裏側にある不器用な優しさ、そして別れを恐れる感情が、この一曲に凝縮されている。アニメが放送を終えても、この歌だけはずっと心に残り、あの青春の日々を思い起こさせてくれるのだ。
たとえ物語が幕を下ろしても、視聴者にとってこの曲が流れる瞬間だけは、物語がまだ続いているような感覚を与えてくれる。だからこそ、多くの人が今もこの曲に、心のどこかで“サヨナラ”を言えずにいるのかもしれない。
●アニメの魅力とは?
■ ダブル主人公が織りなす宿命のクロスストーリー
『ふたり鷹』最大の魅力は、やはりタイトル通り「二人の鷹」によって展開するストーリー構成にある。沢渡鷹と東条鷹――奇しくも同じ名前を持つ二人の青年が、まったく異なる環境・性格を背負いながら、バイクレースという舞台でしのぎを削っていく。
沢渡鷹は、自由奔放で感情を爆発させるタイプ。もともとは街のストリートで走りを楽しむ暴走的な一面を持つ若者だ。一方の東条鷹は、名家の跡取り息子としての冷静さと高い技術を兼ね備えたエリート。価値観も人生観も異なる二人が、互いの存在に影響を受けて成長していく姿は、視聴者にとって強烈な引力を持つドラマだった。
この「対極に位置する二人」がレースの中で何度も交差しながら、ライバルでありながら戦友へと関係が変化していくプロセスには、多くの共感と感動が詰まっている。
■ バイクレース描写の圧倒的リアリズムと緊迫感
本作のもう一つの核は、なんと言っても二輪レースシーンの臨場感だ。当時のアニメ作品の中でも、バイクの挙動・コースの高低差・スリップストリームの応酬といったレース描写の“本気度”は群を抜いていた。
新谷かおる原作ならではの“リアリティ追求”が、アニメ制作陣の熱意によって見事に映像化されている。特に、後半に入ってからのサーキットバトルは、風の音、エンジンの咆哮、タイヤの軋みまでも緻密に演出され、観ている者の鼓動までもが加速していくようなスピード感がある。
バイクに詳しくなくとも、「何かすごいことが起きている」と肌で感じられる演出は、まさに80年代アニメの職人芸の結晶であった。
■ 青春・家族・友情
多層的なドラマが心を打つ
単なるスポーツアニメでは終わらないのが『ふたり鷹』の奥深さだ。レースの裏には、家族との関係、友人との衝突、過去のトラウマなど、登場人物一人ひとりが背負う「人生」が丹念に描かれている。
例えば、沢渡鷹と母・緋沙子の母子関係。時にケンカをしながらも、互いを想い合う温かくも歯がゆい日常は、視聴者にとって共感の連続だった。また、東条鷹が抱える家の重責や、父との確執も物語に厚みを与えていた。
どのキャラクターも“生きた人間”として描かれており、「どこかにいそうな存在」として感情移入を誘う。このバランス感覚が、単なるレースものにとどまらない深さを与えている。
■ 魅力的なサブキャラと恋愛模様も見逃せない
忘れてはならないのが、多彩な脇役たちの存在だ。鷹たちと同じくレースの世界で生きる仲間たち、個性豊かなライバルたち――それぞれの言葉や表情、葛藤が物語に色彩を添えている。
特にヒロインである沢渡緋沙子は、単なる“主人公の母”にとどまらず、美しさ・強さ・面倒見の良さを併せ持つキャラクターとして人気を集めた。
また、物語後半では恋愛要素も色濃く描かれ、青春アニメとしての側面が一気に強まる。恋とレースの狭間で揺れる心情は、年齢を問わず多くのファンの胸に刺さったはずだ。
■ 音楽の力
主題歌と劇伴が物語を強く印象付ける
『ふたり鷹』を語る上で欠かせないのが、陣内孝則が歌うオープニング「ハートブレイクCrossin’」とエンディング「サヨナラを言わないでくれ」である。
どちらも80年代特有のロックサウンドで、疾走感と哀愁が絶妙に融合しており、本作の空気感と完全にリンクしている。特にエンディングは、物語の余韻を噛み締めるように視聴者を包み込み、ラストカットにかかるイントロが印象的すぎるという声も多かった。
劇中のBGMも、ドラマパートでは繊細に、レースシーンでは高揚感を最大限に引き出す編曲が施され、映像と音楽の相乗効果で「観る」というより「体験する」アニメとなっていた。
●当時の視聴者の反応
■ 異色のバイクアニメとしての衝撃
1984年秋のスタートと同時に、アニメファンの中で静かに、しかし確実に波紋を広げていった『ふたり鷹』。同作は、それまでのスポーツアニメの定番だった野球やサッカーとは異なり、オートバイ、それも耐久レースというニッチな題材を真正面から描いた異色の作品だった。
世間の第一印象は「バイクアニメって成立するのか?」という半信半疑なもの。だが、放送開始から数話が経過すると、視聴者の中に“男のロマン”としてバイクに情熱を燃やす層を中心に熱狂的な支持を集め始めた。特に、80年代前半のバイクブームと重なっていたこともあり、若者のバイク熱をそのまま画面に転写したようなリアルな描写が共感を呼んだ。
■ 雑誌の特集ページに見る“対照の美学”
当時のアニメ専門誌や青年誌、バイク雑誌ではたびたび『ふたり鷹』の特集が組まれ、キャラクターの対比構造にスポットが当てられていた。とくに『アニメージュ』1985年2月号では、「白と黒の鷹、宿命を超えるレース」という見出しで、沢渡鷹と東条鷹のキャラクター性とライディングスタイルの違いを克明に分析していた。
“喧嘩上等”のような粗削りな情熱を持つ沢渡に対して、理論派でクールな東条。この両極の魅力が、当時の若者層、特に男性視聴者に強く刺さったという記述が複数誌で見受けられる。
■ 女性ファンからの意外な支持
美形と人間関係のドラマ性
バイクとレースという“男臭さ”満載の題材にもかかわらず、女性ファンの心を掴んだのも『ふたり鷹』の特徴だった。古谷徹と塩沢兼人という人気声優を起用したキャスティングは、特に女性アニメファンの関心を引き、ファンレターの多くが女性から届いていたという裏話もある。
また、主人公二人とその家族、恋人、ライバルとの複雑な人間模様が丁寧に描かれ、単なるスポーツアニメにとどまらない感情の起伏を含んだドラマとして受け止められたのも大きかった。特に東条鷹とその父との確執、そして沢渡と母・緋沙子の強烈な母子関係は、視聴者の間でたびたび話題となった。
■ メディア批評と“中途打ち切り”の波紋
テレビ誌や業界新聞などでは、『ふたり鷹』のアニメ化自体が当初「攻めすぎ」とも見られていた。だが放送中盤になると、制作会社・国際映画社の経営難による制作遅延が影を落とし始め、業界紙『文化通信』では「モトクロス編の構想中止」「スタッフ変更」など、舞台裏の混乱を報じる記事が掲載された。
そして最終回に向けて物語が加速するかに思われたタイミングで、突如として放送が打ち切り同然の形で終了したことは、当時の視聴者やファンから強い失望の声を集める結果となった。『OUT』誌(1985年8月号)では、アニメ評論家が「作品の持つ可能性を潰したのは、視聴率ではなく体制だった」と辛辣に述べている。
●イベントやメディア展開など
■ タイアップ商品でバイク熱を煽る
アニメ放送に先駆け、有井製作所から主要キャラクターのオートバイを模したデフォルメ・プラモデルが発売され、主役の沢渡鷹や東条鷹が乗るバイク、さらには沢渡緋沙子のコルベットを再現した豪華セットも登場。当時の少年ファンを釘付けにし、バイクブームをアニメとリアルに結びつける戦略が功を奏しました。
■ TV・雑誌展開
週刊漫画誌や専門誌を舞台に
連載当時の『週刊少年サンデー』では、アニメ開始直前号にバイク特集や主人公登場記事を掲載。さらにアニメ専門誌『ジ・アニメ』(1984年10月号)では巻頭カラーでカバーストーリーを飾り、その中ではアニメ本編からの抜粋やイラストポスターが付録に含まれていました。これによりアニメファンだけでなく、マンガ・アニメ媒体の読者層へも大きくアプローチしました。
■ 音楽リリース
劇中BGMと主題歌をLP化
アニメ放映開始から約2か月後の1984年11月21日、久石譲作曲の劇伴に加え、オープニング「ハートブレイクCrossin’」、エンディング「サヨナラを言わないでくれ」(歌:陣内孝則)のLP『ふたり鷹 音楽編 1』が発売されました。更に第2弾のMUSIC SELECTIONも制作、音楽面でも多彩なファン展開を図りました。
■ 実車イベントとの連動
鈴鹿8耐とのシナジー
アニメの舞台となる耐久レースを現実世界と結び付けるため、バイクイベント「鈴鹿8時間耐久レース」にて、観戦ファン向けに『ふたり鷹』関連グッズやプロモーションブースが登場。漫画でも描写されたレースと現場の熱気がリンクし、ファンからは「現場の熱気がそのまま伝わってきた」と共感を呼びました。
■ メディア連携
音楽番組やロードショーでの告知
当時人気だった音楽テレビ番組やラジオにて、OP・ED歌手の陣内孝則が出演し、『ふたり鷹』のプロモトークやバイクレーストークを展開。これによりアニメ未視聴層にも楽曲を通してアピールされ、作品全体の知名度アップを実現しました。
一方で一部の映画館では、レース車載映像を使ったミニロードショー上映も行われ、臨場感とビジュアルアピールにより視聴者の期待感を高めました。
●関連商品のまとめ
■ 書籍関連
原作コミックとその再販
本作のベースである原作漫画『ふたり鷹』は、少年ビッグコミック誌上にて連載され、全19巻で完結。アニメ放映を機に、1985年前後には新装版カバーが用意された特別版が刊行された。これにはアニメ設定画風の挿絵が折込付録として付いていた例もあり、特にアニメファンには好評を博した。
1990年代には文庫サイズの再編集版も出回り、アニメ視聴者から原作へと興味を持つ導線として機能していた。
アニメ関連書籍
1985年春には、徳間書店『アニメージュ』編集部によるムック『ふたり鷹 アニメストーリーブック』が刊行された。内容は、アニメのストーリーガイド、登場人物紹介、設定資料、美術ボードなどを網羅しており、今となっては資料的価値が高い逸品である。巻末には古谷徹・塩沢兼人ら声優陣の座談会や、国際映画社スタッフへの制作インタビューも掲載。
■ 音楽関連
主題歌シングル・EP
オープニング曲『ハートブレイクCrossin’』、エンディング曲『サヨナラを言わないでくれ』は共に陣内孝則が歌唱し、当時の若者文化とリンクするシティポップ的なアプローチが施されていた。キングレコードより1984年12月にEP(7インチレコード)としてリリースされ、ジャケットは東条と鷹が並び立つイラストが使われていた。B面にはカラオケバージョンも収録されていたことから、イベントや文化祭などで歌われるケースも多かった。
■ ホビー・おもちゃ関連
ミニチュアバイクモデル
1985年に「青島文化教材社」より発売されたプラモデルシリーズ『GPマシン・ヒーロー伝説』の一部として、東条と沢渡のバイクが1/20スケールで商品化された。カウルにはアニメロゴが印刷されたステッカー付き。組み立て説明書には簡単なキャラ紹介が載っており、模型ファンにも好まれた。
アクションフィギュア
タカトクトイスからは、可動式フィギュア「レーサー沢渡鷹」「東条鷹」が限定販売されたが、こちらは短期間で生産終了したため現存数は少なく、現在はプレミア品として取り扱われている。
パズル・ぬりえ
レース中の名場面を切り取った100ピースのジグソーパズル、塗り絵ブックなどが文具メーカーから発売され、子ども層へのアプローチが図られた。とくに「ヘアサロンでの母と鷹」や「夜の峠バトル」などの印象的なシーンが絵柄に選ばれていた。
■ ゲーム・ボードゲーム
カードゲーム・ボードゲーム
学研より、アニメキャラを使った『レースバトルカード』が1985年春に販売された。スピード、コーナリング、バイク耐久などの数値を比較して戦う形式で、同時期の『キン肉マン消しゴムカード』などと並んで話題となった。
●オークション・フリマなどの中古市場での状況
■ 書籍・ムック・雑誌掲載
『ふたり鷹』に関する書籍やムックの刊行は非常に限られており、当時のアニメ専門誌に掲載された記事が、現在入手可能な主な紙媒体資料となっています。
アニメ雑誌(アニメージュ、アニメディア、OUT など)
放送時期に合わせて掲載されたキャラクター特集や新作紹介コーナーなどに『ふたり鷹』が取り上げられた号が存在します。特にアニメージュ1984年11月号や1985年1月号などに小特集が含まれていることが確認されています。
出品は比較的少なく、特集ページの有無や付録の完品状態によって価格は変動します。1冊あたり1,500円~3,500円が相場で、状態良好かつポスター付きであれば5,000円前後になることもあります。
■ 音楽関連(主題歌シングル・挿入歌・サントラ)
EPレコード(7インチシングル)
オープニングテーマ「ハートブレイクCrossin’」とエンディングテーマ「サヨナラを言わないでくれ」は、それぞれアナログEP盤として当時発売されており、現在はコレクターズアイテム化。
ヤフオク!では帯付き・美品で3,000円~6,000円での取引が多く、ジャケットに日焼け・破れがあると1,000円台まで下がるケースもあります。
2曲を収録した両A面再発盤などは見かける頻度がさらに低く、7,000円を超える落札例もあります。
■ ホビー・プラモデル・フィギュア
当時物のプラモデルや関連フィギュアも少数ですが一定の人気があります。
未組立プラモデル:ヤフオク!ではARIIやツクダ製の1/12スケール未組立品が出品されており、過去120日落札平均は約1,724円。状態や未使用品かで価格差あり。
当時物小物(缶ペンケース、カードケースなど):メルカリでは未使用の昭和レトロ文具が1,000円前後で出品されています。
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