
別冊NHK100分de名著 果てしなき 石ノ森章太郎 (教養・文化シリーズ) [ ヤマザキ マリ ]





【アニメのタイトル】:チックンタックン
【原作】:石森章太郎
【アニメの放送期間】:1984年4月9日~1984年9月28日
【放送話数】:全23話
【監督】:早川啓二、案納正美
【シリーズ構成】:山本優
【脚本】:山本優、大橋志吉、首藤剛志、戸田博史、土屋斗紀雄、ほか
【キャラクターデザイン】:小和田良博
【音楽】:安西史孝
【作画監督】:小和田良博
【美術監督】:小林七郎
【アニメーションブレーン】:スタジオぎゃろっぷ
【アニメーション制作】:スタジオぴえろ
【制作】:学習研究社、フジテレビ
【放送局】:フジテレビ系列
●概要
■ 時代の空気を映した、奇想天外なドタバタ劇
1984年春から秋にかけて、フジテレビ系列で放送されたテレビアニメ『チックンタックン』は、昭和の終盤を象徴するユーモア満載のギャグ作品です。本作は、日本を代表する漫画家・石森章太郎(現・石ノ森章太郎)の原作をベースに、学習研究社とフジテレビが共同で制作。時代のトレンドを巧みに盛り込みつつ、視聴者の笑いを誘う異色のアニメシリーズとして放送されました。
放送期間は1984年4月9日から9月28日までの約半年間。全話を通して、シュールでテンポの良いギャグと、ポップな世界観が展開され、子供から大人まで幅広い層にインパクトを残しました。
■ 奇妙で魅力的なキャラクターたちの冒険譚
作品の舞台となるのは、千葉県内房エリアを彷彿とさせる海と山に囲まれた、のどかながらもどこか奇抜な町。ここで繰り広げられるのは、メインキャラクターたちによるドタバタの連続です。
タイトルにもなっている「チックン」と「タックン」は、本作の主役級コンビ。どちらも明確な種族不明の不思議な存在で、丸みを帯びたデザインと色鮮やかな外見が特徴。彼らはタイムマシンのような装置で時空を飛び越えたり、変身したり、時にはメカを操ったりと、非日常を自在に動き回ります。
また、物語には「ワルワル団」なる三人組の悪役たちも登場。彼らは常に「世界征服」や「イタズラの限界突破」を目指し、チックンとタックンの邪魔をするというお決まりの展開が毎回の見せ場。特にワルワル団のリーダー「ナンジャ大王」は、濃厚なギャグセンスと計算外の行動で人気を集めました。
■ 作品全体に散りばめられた「80年代文化」のエッセンス
『チックンタックン』が特筆すべき点は、当時の世相や流行アイテム、音楽、テレビ番組などの要素を多数取り入れていたことです。たとえば、アイドル歌手のパロディキャラクターが登場したり、テレビショッピング風の演出がなされたりと、そのエピソードは毎回「その時代ならでは」のギャグで構成されていました。
また、ゲームセンター文化の流行を背景に、アーケードゲーム風のバトルや、デジタルな演出も導入されており、当時の小中学生にとって非常に「リアルなあるある感」が漂っていたことも作品の魅力です。
その一方で、意味不明な展開や過剰なリアクションが多く、「ナンセンスギャグ」の一翼を担う存在として、後のギャグアニメに少なからず影響を与えたとも言えるでしょう。
■ 視聴者の記憶に残る、独特の演出とテンポ
『チックンタックン』の特徴のひとつが、独特なテンポ感と演出スタイルです。アニメーションの動きにはあえて“止め絵”や“ループ動作”を多用し、場面転換も極めて突飛。ナレーションも含め、視覚と聴覚に一気に畳みかける「不条理な笑い」が貫かれていました。
音楽もまた、テンポの良いテクノポップ調で構成され、主題歌や挿入歌も耳に残るメロディが多く、日常的に口ずさむ子供も多かったとされます。特にオープニングテーマは、視聴者の間で“元気が出る一曲”として認知されていました。
■ 制作体制とその特色
本作は、教育出版で知られる学研(学習研究社)とフジテレビが共同制作した珍しいスタイルで生まれました。もともと学研の雑誌などで展開していた児童向けコンテンツがベースにあり、アニメ化に際しては石森章太郎が原案キャラクターをデザイン。その独特の絵柄と世界観がアニメスタッフによってさらにシュールに昇華されたかたちとなっています。
アニメ制作は、東映動画やぴえろのようなアニメスタジオではなく、比較的小規模な制作陣が中心となっており、手作り感と実験精神に満ちた演出が目立ちます。スタッフの遊び心が随所にあふれ、アニメ内でスタッフの名前をもじったキャラが登場するなど、メタ的要素も意識されていました。
■ 一話完結スタイルの妙と、風刺の効いた展開
物語は基本的に一話完結型で進行します。そのため視聴者は途中から見ても十分楽しめる設計になっており、「今日は何が起きるのか」と予想のつかない展開が毎週の楽しみとなっていました。
また、風刺的な要素もふんだんに盛り込まれており、学校生活や社会現象、大人社会の矛盾などにチクリと一言入れるようなネタも多かったのが特徴です。これは子供向けアニメでありながら、実は親世代にも向けたウィットが含まれていたという証でもあります。
■ 今なお新鮮に響く、昭和ギャグアニメの逸品
『チックンタックン』は、単なる子供向け番組にとどまらず、時代を反映した風刺とアート性が共存する実験的作品でした。キャラクターのユーモア、脚本の奇想天外さ、テンポの良い演出など、現在のアニメに通じる“破天荒ギャグ”の原型とも言える存在です。
今後、昭和アニメの再評価が進む中で、この作品も再び脚光を浴びる機会が訪れるかもしれません。かつてテレビの前で大笑いしていた視聴者たちが、次の世代に語り継ぎたくなるような、そんな一作が『チックンタックン』なのです。
●あらすじ
■ ワルチン大事典と異星からの脅威
アール星。その星の秘密を握る最重要アイテム――“ワルチン大事典”。このコンピュータは、いかなる悪事も具現化させる力を秘めていました。そこへ、野望を抱くDr.ベルといつもドジな相棒ロボ・ギジギジが目をつけ、この禁断の電子書籍を奪い取り地球へ逃亡を図ります。コンピュータを悪用し、地球を混乱と支配に染めようとするDr.ベルの計画が、今まさに動き始めたのです。
■ 王子チックンと帽子型アドバイザー・タックン
盗まれた“ワルチン大事典”を取り戻すため、アール星の王子・チックンが派遣されます。チックンは好奇心旺盛で少しおっちょこちょいな小学生の少年。彼を支えるのは、シルクハット型の賢い補佐官・タックン。帽子に見えるその体は、伸縮するリボンやロボット機能を備え、王子であるチックンをも支え、導く重要な存在です。
■ 南田ミコとキュンキュンズ結成
チックンとタックンの円盤は、地球の内房地域に不時着。そこで出会ったのが、小学生の南田ミコです。好奇心と正義感に溢れる彼女は、チックンから一連の事情を教えられ、Dr.ベルの脅威を知ります。ミコはクラスメイトの友人たち(マキ、メカ子、ゆうこ、ちいちゃん)とともに“キュンキュンズ”を結成し、チックンに協力することに。
このチーム編成によって、作品は単なる宇宙対地球の構図から、地球っ子と宇宙っ子が“友情×冒険×コメディ”を織り交ぜて戦う物語へと進化していきます。
■ 連戦連敗?Dr.ベルとギジギジの迷走作戦
Dr.ベルは常に“ワルチン大事典”をフル活用し、地球征服のための奇想天外な発明やトリックを次々に仕掛けます。ロボットや怪物、気象兵器などバラエティ豊かな“悪のアイデア”を次々と具現化。けれどもDr.ベルの計画はことごとく阻まれるのです。かつ、Dr.ベル自身がミコに一目惚れしてしまい、ドタバタがさらにヒートアップ。攻撃は奇策でも、恋の行方はいつも空回り。そんな愛嬌ある彼のキャラクターが、ギャグタッチに描かれる点も本作の魅力です。
■ 物語の山場とドラマ性
本作は各話ごとに異なる“ワルチン大事典の悪アイデア”による事件が勃発します。例えば天候操作、巨大ロボ乱舞、催眠兵器、人工ウイルス…と、80年代的テイスト満載。それらをキュンキュンズ・チックンタッグが連携で阻止し、友情や絆を深めていきます。
終盤では、Dr.ベルの恋心がクライマックス的に膨らみ、一度だけ“大事典の力でミコとチックンを分断しよう”という企てを実行。感情が絡んだ緊迫の中、チックンや仲間たちは思わぬ判断を迫られ、友情の本質とリーダーの資質が問われます。
●登場キャラクター・声優
●チックン・ダック
声優:菅谷政子
アール星の若き王子で、アヒルかペンギンに似た見た目がチャームポイント。とても好奇心旺盛で、時には自己中心的にも振る舞うが、純粋な性格。地球のおいしい食べ物に目がなく、よく「~のら」と言う口癖が出る。愛用の宇宙船「メンフォー号」に乗って地球にやってきた。好物はラーメンで、ミコとの出会いをきっかけに地球の生活に夢中になる。
●タックン・ハット
声優:肝付兼太
チックンを見守るシルクハット型ロボットで、機械の中から腕や手のようなリボンを出すことができる。知識に長けており、まるで科学の先生のような存在。チックンを守るだけでなく、メカ開発も担当。チックンはタックンをかぶったり逆さにして中に入り、飛行やタイムトラベルも可能にする万能ぶり。「~であーります」が口癖。
●ジタバタメカタン
声優:龍田直樹
巨大ロボット型のボディーガードで、普段はおっとりしているが、変形すればジェット型に早変わり。驚異的なパワーの持ち主で、チックンを危険から守る。性格は温厚で、基本的に物静か。
●南田ミコ
声優:冨永みーな
チックンとタックンが居候する小学生。アニメ版では赤いショートヘアで、自分を「僕」と呼ぶ少年っぽい口調が特徴。小学6年生で、地上に来たアール星の二人を最初に助け、地球での生活を支える。
●Dr.ベル(ドクター・ベル)
声優:千葉繁
アール星出身の自称「大悪党」で、チックンの最大のライバル。頭部がベルの形をしており、動くたびに鳴るギミック付き。自慢の宇宙船「ナズマー号」で地球へ侵攻。常に「~ベル」が口癖で、焦りやすい性格も手伝ってどこか抜けた印象を与える。
●ギジギジ
声優:緒方賢一
Dr.ベルの相棒として仕える六本足の小型ロボット。ちょっとおっちょこちょいで、よく「~ギジ」とひとこと付けて話す。忠誠心は高いが、どこか抜けているギジギジらしさが漂う。
●ワルチン大事典
声優:滝口順平
見た目は百科事典だが、実は高度なコンピューター機能を備えた“悪の辞典”。アール星のキングが封印していたが、Dr.ベルに奪われて地球にもたらされる。「ワルチン大事典」に記された情報を元に、あらゆる悪事を具現化できる。第7話までは電子音声で話す設定。
●主題歌・挿入歌・キャラソン・イメージソング
●オープニング曲
曲名:「好きしてチックン!!」
歌唱:平野文
作詞:森雪之丞
作曲:馬飼野康二
編曲:馬飼野康二
■楽曲の印象と全体像
「好きしてチックン!!」は、一聴して耳に残るキャッチーなメロディと、愉快で明るい雰囲気が特徴のポップチューン。アニメの世界観そのままに、ユーモアとテンポ感に満ちたアッパーな楽曲で、視聴者を物語の世界へ軽やかに引き込む役割を果たしていました。子どもたちがテレビの前で思わず口ずさみたくなるような、軽快なイントロとサビのリズムが印象的です。
曲調はややコミカルなファンキーポップで、電子音やシンセドラム、跳ねるようなベースラインが80年代らしいカラフルさを醸し出しています。まさに“チックン”という言葉の響きそのまま、いたずら心とワクワク感が詰め込まれた一曲です。
■作詞・作曲陣の妙技
本楽曲の作詞を手がけた森雪之丞は、言葉遊びやリズム感に優れた筆致で知られる作詞家。ここでも彼らしさが全開で、「チックン」「タックン」といった固有名詞を自然にリリックへ溶け込ませながら、メロディと一体化したフレーズ展開を生み出しています。特に「好きして」「チックン」という繰り返しは、まるで呪文のような中毒性があり、楽曲のタイトルがそのまま耳に残る構成になっています。
一方、作曲・編曲を担当したのは80年代アニメソング界の重鎮馬飼野康二。彼が得意とする華やかなアレンジ、トランペットやシンセの重ね合わせによる賑やかな音づくりは、子ども向けアニメの世界観を余すところなく表現。リズムの取り方も独特で、ポンポン跳ねるようなビートが「チックン」や「タックン」といった言葉と絶妙にマッチします。
■歌詞の世界観と構成
この曲の歌詞には、アニメ『チックンタックン』の主軸である“異星人×地球人の交流とトラブル騒動”が巧みに反映されています。以下は、そのイメージの要約です。
Aメロでは、主人公チックンが巻き起こす奇想天外な日常がコミカルに描かれ、「また何かやらかしたな」と思わせる展開。
Bメロでは、「でもなんだかんだ言って憎めない」という心情がこめられ、南田ミコたちの受け入れる姿勢が想起されます。
サビでは「好きして!チックン!!」と高らかに歌い上げることで、彼の存在がみんなにとってどこか愛おしい、というメッセージが込められています。
また、歌詞には「時間を飛び越え」「銀河を駆ける」などSF的なワードも差し込まれ、ギャグアニメながらも舞台設定のスケールの大きさを伝えており、作品のファンタジー性を補強する効果もあります。
■歌手・平野文の表現力
本楽曲を歌い上げたのは、『うる星やつら』のラム役でも知られる平野文。彼女の歌声は、透き通るような可愛らしさと程よいアニメ的誇張が融合しており、「アニメ主題歌」の理想的なボーカルスタイルを体現しています。
この曲においても、セリフのように言葉を弾ませながらも、しっかりと音程を保った明快な発声が特徴で、サビでは一気にテンションを上げて「好きしてチックン!!」をシャウト気味に歌うことで、楽曲全体に活力を与えています。語尾の処理なども絶妙で、楽曲全体のリズムとナチュラルに調和しています。
平野文の発音には独特の柔らかさがあり、耳に心地よく届く声質がこの曲調にぴったりはまっています。まるでアニメのキャラクターがそのままステージに上がって歌っているような臨場感を与えてくれます。
■当時の視聴者の反応・感想
放送当時、このオープニングは子どもたちを中心に人気を博し、アニメが始まる前からテンションを上げる“合図”として定着しました。
「テンポが楽しくて朝から元気になれる!」「“好きしてチックン!!”のフレーズが頭から離れない」といった感想が相次ぎ、地域の小学生たちの間では“好きしてダンス”と称して、サビの部分をまねて踊るブームが局地的に発生していたという記録も一部に残っています。
また、親世代からも「子どもがこの曲を歌いながら登校しているのを見て元気をもらった」「歌詞が明るくて安心して聴かせられる」といった好意的な声があり、老若男女問わず受け入れられていたことがわかります。
■まとめ:アニメと共に記憶に残る主題歌
「好きしてチックン!!」は、1980年代のアニメ主題歌の中でも特にポップな一曲として知られ、作品のドタバタギャグ感とキャラクターの魅力を音楽面から際立たせることに成功しました。
アニメソングとしての完成度の高さ、そして何よりも“毎週この曲が始まるとワクワクした”という体験を視聴者に届けた楽曲であり、その存在感はいまなおファンの心に刻まれ続けています。
●エンディング曲
曲名:「Dr.ベルのテーマ」
ボーカル:千葉繁
作詞:森雪之丞
作曲:馬飼野康二
編曲:馬飼野康二
■楽曲の雰囲気と第一印象
「Dr.ベルのテーマ」は、アニメ『チックンタックン』の締めくくりに流れる、非常にユニークで個性派のエンディング曲です。一般的なアニメソングのイメージを打ち破るような、哀愁とユーモアが入り混じった“悪役の独白ソング”として、強烈なインパクトを視聴者に与えました。
オープニングの明朗快活な「好きしてチックン!!」とは対照的に、このエンディング曲ではアニメの敵役であるDr.ベルの主観を中心に構成されており、まるで一人芝居のような仕上がりになっています。楽曲全体から漂うのは、ギャグの裏に潜む“報われない者の哀愁”。それをコミカルかつ濃厚に歌い上げるのが、千葉繁の存在感です。
■楽曲構成と作家陣の魅力
作詞を担当したのは、数々の奇抜で心に残る歌詞を生み出してきた森雪之丞。本楽曲でも、悪役Dr.ベルのキャラクター性を見事に言葉に落とし込み、まるで一幕のコメディ演劇のような展開を歌詞で描いています。
「こんなはずじゃなかった」「計画通りにいかない」「部下に足を引っ張られる」など、悪の天才としてのプライドと現実のギャップに悩むDr.ベルの姿が、コミカルに、しかしどこか切実に描かれており、悪役に人間味を与える珍しい歌詞構成です。
そして、楽曲を形作るのは作曲・編曲を務めた馬飼野康二の手腕。悲壮感漂うマイナースケールの旋律と、ブラスを中心に据えたビッグバンド風のアレンジにより、まるで古き良き劇場映画のサウンドトラックを彷彿とさせるような雰囲気を醸し出しています。愉快さと皮肉っぽさを共存させるこのバランスは、馬飼野氏ならではの絶妙なアプローチと言えるでしょう。
■歌詞の内容とその世界観
この曲の歌詞は、まさに「悪のリーダーの嘆き節」といった趣で、内容は以下のような構成になっています。
冒頭では、「なぜ自分の天才的発明が理解されないのか」という自尊心に満ちたモノローグ風に始まり、いかにも自信家なDr.ベルの一面を覗かせます。
中盤では、相棒であるギジギジの足を引っ張る行動に苛立ちながらも、それすら運命として受け入れる諦念が語られます。
終盤には、それでも諦めず次の悪だくみへと向かう前向きな(?)意志が滲み出ており、彼の執念深さとどこか哀れさが交錯します。
このように、歌詞は笑いと悲しみが混在した複雑な感情を巧みに織り交ぜており、子どもだけでなく大人の視聴者にも深く響く内容に仕上がっています。
■千葉繁のボーカル表現:キャラクターと完全一体化
本楽曲で最も注目すべきは、やはり千葉繁の独特な歌唱です。アニメでもDr.ベルを演じている彼が、そのままのテンションと口調で歌に挑んでいるため、「セリフと歌の中間」のようなスタイルとなっています。
千葉氏のボーカルは、セリフ劇のような抑揚や誇張を多用し、節回しに感情を込めて上下させる演技的なアプローチが印象的です。時には囁くように、時には怒鳴るように、あらゆるトーンを駆使して、ただの“歌”ではない表現を生み出しています。
彼の演技力がそのまま歌の魅力となっており、「Dr.ベルそのものがスタジオで歌っている」と錯覚するほど、キャラクターとのシンクロ率が高い仕上がりとなっています。この“語り口”こそが、他のエンディングソングにはない最大の個性です。
■当時の視聴者の反応と評価
1984年当時、この曲は他のアニメとは一線を画する異質さから、大きな話題を呼びました。子どもたちは「なんだかよくわからないけど面白い!」と笑いながら聴き、大人の視聴者は「これは単なるギャグじゃない、むしろ演劇的な完成度を持っている」と高く評価する声もありました。
また、「エンディングなのにテンションが上がる」「子どもがものまねをして家で歌っていた」というような声も多く、家族ぐるみで楽しめる“悪役ソング”としての人気を博しました。
後年になって再評価された際にも、「千葉繁の芸が光る傑作」として、アニメソングの中でも特異な存在として取り上げられることが多く、その存在感は時代を超えて語り継がれています。
■総括:ギャグと芸術の間で輝く異端の名曲
「Dr.ベルのテーマ」は、単なるエンディング曲という枠にとどまらず、アニメキャラクターの内面を深掘りし、演劇的かつ音楽的に表現するという、実に高度な作品に仕上がっています。
この楽曲が視聴者に与えたインパクトは大きく、「ギャグアニメでも音楽は本気」という意志を感じさせる一曲でもありました。悪役が主役になるという大胆な構造、それを可能にした千葉繁の圧倒的な表現力と、作詞・作曲陣の確かな技術力が融合したこの作品は、今なお色褪せぬ魅力を放ち続けています。
●アニメの魅力とは?
■ ギャグと科学が融合した異色のアニメ作品
1980年代の日本アニメ界において、ギャグ作品は数多く存在したが、その中でも独特の存在感を放っていたのが『チックンタックン』である。この作品は、ただの子ども向けアニメでは終わらず、時代の風刺や科学的好奇心を巧みに織り交ぜた異色作であった。石ノ森章太郎による原作という信頼性と、フジテレビと学習研究社のタッグによる制作体制が支えることで、斬新なテーマ性とテンポの良いストーリー展開が視聴者を惹きつけた。
■ 個性派キャラクターたちの痛快な掛け合い
物語の中心となるのは、アール星からやってきた好奇心旺盛な王子・チックンと、そのお目付け役である帽子型ロボット・タックン。まるで兄弟のような関係性ながら、性格のギャップが絶妙な化学反応を生み出していた。チックンは感情に素直で行動力の塊、対してタックンは常に冷静で知識豊富。その凸凹コンビが巻き起こすドタバタ劇は、子どもから大人まで思わず笑ってしまう仕掛けに満ちていた。
また、彼らを取り巻く地球人のミコや、悪役であるDr.ベルとギジギジの存在も見逃せない。ミコは“普通の小学生”として異星人との交流を通じて成長を見せ、視聴者の共感を呼び起こした。一方、Dr.ベルの滑稽で憎めない悪巧みは、むしろ作品にユーモラスな深みを加え、悪役ながらも人気キャラとして支持を集めた。
■ 風刺とパロディが絶妙に織り交ぜられた脚本
『チックンタックン』の脚本には、1980年代当時の世相や流行、教育現場、メディアの在り方を皮肉るような描写が随所に盛り込まれている。例えば、科学の授業をパロディ化したコーナーや、社会現象をデフォルメしたエピソードは、子どもにとっては面白く、大人にとっては“なるほど”と感じさせる構造になっていた。
このような多層的なユーモアの作り込みが、単なるギャグアニメの枠を超えた魅力を放っていた要因である。また、シュールな展開が唐突に現れることも多く、その意外性こそが、放送当時の視聴者をクセにさせた要素の一つでもある。
■ 作画と演出が生み出すスピーディーな映像体験
アニメーションのテンポもまた、この作品の特徴的な部分であった。カットの切り替えが早く、キャラクターの動きも滑らかで、特に変形ギミックや科学メカの描写には力が入っていた。タックンの帽子から飛び出すアームやリボンが自在に形を変えるシーンは、子どもたちに強烈な印象を残し、放送後には“あれが欲しい!”という声が続出したというエピソードも。
背景には、昭和の町並みや学校の風景、さらには宇宙空間や異星のテクノロジーまでが描かれ、ギャグ一辺倒で終わらない奥行きのある世界観が広がっていた。
■ 音楽と主題歌の強烈なインパクト
オープニングテーマ「好きしてチックン!!」は、平野文のエネルギッシュな歌声が印象的で、子ども心を鷲掴みにする快活なリズムが特徴だった。また、エンディングの「Dr.ベルのテーマ」では、千葉繁の独特な歌い回しがキャラクターの狂気と可笑しさを強調し、視聴者の耳に残りやすい中毒性の高い一曲となっていた。
このように音楽面でもキャラクター性や物語性が意識されており、サウンドによる印象付けが非常に巧みに行われていた。
■ 教育的要素と娯楽性のバランス
本作の背景には、教育的な意図も巧みに潜んでいた。科学的な知識や日常生活のマナーなどを、コミカルな演出の中に溶け込ませて自然と子どもたちに伝える工夫があった。特にタックンが“先生”となって科学の解説を行うシーンは、当時の教育テレビ的要素を感じさせ、保護者からも一定の評価を得ていた。
その一方で、ストーリーのテンションやギャグのキレは常に高く保たれており、決して“お堅い番組”にならなかった点も評価される理由である。
●当時の視聴者の反応
■ 放送開始の高揚感と期待感
1984年春、『サイボーグ009』や『仮面ライダー』で知られる石ノ森章太郎原作作品として、教育雑誌での連載を経てTV化されたことは、当時の子育て世代にも話題でした。学研とスタジオぴえろの共同制作で、教育色の強いアニメがテレビで見られるということで、新聞のテレビ欄や当時の月刊雑誌では、家族そろって楽しめそうだと紹介されることもありました。教育漫画がテレビアニメ化されるのは当時としても異例で、「まさかTVで授業が始まるとは!」という期待混じりの反響が、世間には広がっていたようです。
■ 視聴者投稿のリアルな声
当時、視聴者が投稿できる雑誌のハガキ欄には、「チックンとタックンのデザインが可愛くて、うちの子も大ファンに」という喜びの声が散見されました。
「青いチックン、赤いタックンって珍しくてすぐ覚えちゃいました♪」
「ミコちゃんっていう地球の女の子がかわい~。声もぴったり!」
また一方で、こういった教育漫画出身のキャラがごちゃごちゃしたストーリーで登場することに戸惑う保護者の声や、「子どもが真剣に学習するとは限らない」「ただのお遊びに終わらない?」などの懐疑的な意見も寄せられていました。
■ テレビ誌の扱いと“ドタバタ枠”としての立ち位置
当時の『テレビマガジン』『アニメージュ』など、主要なテレビ情報誌では、『チックンタックン』は「新感覚ギャグアニメ」として紹介された。「シュール×スピード感」を打ち出した内容は、当時流行していたおちゃらけバラエティと重なる部分もあり、「お笑い第2世代」の台頭と連動するかのようなノリも感じさせた。
特に「テレビランド」1984年6月号では特集が組まれ、キャラクター紹介とともに“ギャグ科学”をテーマにした記事が掲載された。読者からは「ギャグだけじゃなくて勉強にもなるのがいい」といった声が多く寄せられ、アニメに求められる多様性への先駆けとしても注目された。
■ 地方局での再放送と地域別反応の違い
初回放送終了後、一部地域では再放送や時間枠変更での再編成が行われた。関西地区では夕方の時間帯に移動された結果、保育園児から中学生まで幅広い層に再認知され、視聴率が上向くなど局地的ブームが再燃。また、東北の一部地域では、アニメの科学的なネタに対して“理科好き少年”の注目が集まり、教育関係者が「教材に応用できる」と地域新聞にコラムを寄稿するなどの反響もあった。
●イベントやメディア展開など
■ 新聞・テレビ誌広告
放送開始1~2週間前から、大手新聞テレビ欄・週刊雑誌・ラジオ番組ガイドでポスター広告が連日掲載されました。これは“石ノ森章太郎原作”“新作SFコメディ”といったキーワードを前面に押し出し、親子層に強い訴求効果を狙ったもので、フジテレビの制作特集コーナーでも宣伝されました。
■ 店頭パンフレット配布
富士通系デパートや大型書店、玩具販売店では、小型パンフレットの配布を実施。チックンとタックンが紹介された資料は、子どもたちの注目を集め、店頭でのアニメグッズ販売を後押ししました。
『5年の科学』『1年のかがく』『2~6年の学習』など、学研刊行の学年誌での連載漫画とアニメを連動させるクロスメディア施策が展開されました。誌面では「チックンタックン学習冒険編!」などの見出しで、アニメと教材のタイアップ企画が進行。
特に1984年4月号から、アニメ化決定を告知し、「アニメ本編に登場する○○メカ特集」やキャラ解説などを特集。アニメ終了後の翌年3月まで連載が継続されたのも、人気の証しでしょう。
■ グッズ展開のおもしろさ
プルバックゼンマイ・ジャイロメカ
実際に玩具メーカー数社とのライセンス契約を結び、アニメキャラクターやメカをモデルにした玩具が発売されました。
特に注目されたのは、“ジャイロチックン”と銘打たれたプルバックゼンマイ式ミニカー。メカ内部にゼンマイを搭載し、一定距離を前進するとジャイロ機能で回転しながら戻ってくるギミックが人気に。
ほかにも、おはなしチャイルド向けの絵本やミニ絵本教材が学研を通して刊行され、子ども層に親しみやすいアプローチを実現。Yahoo!オークションでも後年、当時のグッズが3000~9000円で取引された記録が見られます。
■ テレビ雑誌付録ポスター
『アニメディア』1984年5月号に、B3サイズの両面ポスターが付録としてつき、多くの子どもたちが愛用。
また、セガやゲームセンター系の店頭では小さな紙製プレゼントが配られたとの目撃談もあります。
■ 大型店頭ディスプレイ
玩具量販店やデパートのテレビ紹介コーナーに、チックンタックン特設コーナーを設置。当時の販売担当者によれば、各店でポスター・人形などを集め、放送時間に合わせてビデオを流していたとのことです。
●関連商品のまとめ
■ 映像関連商品
VHS:放送当時には一般向けのリリースは稀で、教育施設・図書館向けに業務用VHSが1巻あたり2話収録で全12巻構成で存在。ジャケットは教育向けに地味な構成。現在では超希少。
2003年12月17日、NHKサービスセンターより「NHKプチプチ・アニメ チックンタック びっくりハウス」としてDVD化。
■ 書籍関連
絵本/テレビ絵本/ノベライズ
テレビ絵本シリーズ
学研が展開した「テレビ絵本 チックンタックン1 電話のベルにご用心」等、カラー画とアニメの原作脚本を扱った絵本が数巻刊行。定価300円程度で、当時の子ども向けに親しまれました。
アニメ雑誌付録・ムック
『アニメディア』1984年5月号に、チックンタックンのポスター(一部重戦機エルガイムとの合体)付録が付き、コレクター需要の高い品となっています。
下敷き・カレンダー付きぬりえ
栄光社/ショウワノートより、キャラ集合絵柄の「ぬりえ&カレンダー」商品が存在。サイズはA4近く、大人も塗れる細部描写と実用性が特徴。
■ 音楽関連
EPレコード・シングル
主題歌「好きしてチックン!!」(平野文歌唱)、「Dr.ベルのテーマ」などが7-inchレコード(CANYON 7G0044)で発売。
音楽集アルバム
キャニオンレコード(C25G0349)より、サウンドトラック的な音楽集LPがリリース。
カセットテープ収録曲
テレビマンガヒット集やアニメソング集系のカセットテープに収録され、「パーマン/チックンタックン」といったバンドル商品がヤフオク等に見られます。
■ ホビー・おもちゃ
ゼンマイ式玩具「ジャイロチックン」
プルバック式やゼンマイタイプのチックンタックン玩具が1984年に学研・ポピー等から発売。
セル画・原画関連
Mandarake等で、第1期アニメ映像から切り出されたセル画が販売(2,500円台から)。コレクターには資料性が高い 。
紙もの玩具・玩具雑貨
当時のものとして、ぬりえセット、下敷き、カレンダーつき文具類、紙製お面なども発売され、現在まとめ売りセットが1,000円前後で流通 。
■ 日用品・文房具・雑貨
文房具類
下敷き、ノート、鉛筆、消しゴム、メモ帳セットなど。キャラ+牧場や自然描写が融合した文具デザインで、当時の学習文具市場で複数アイテムが展開され、メルカリ等で300~2,000円台で取引 。
紙製カード・ステーショナリー
ブロマイドカード、クリアファイル、下敷き、スタンプなども関連商品として製品化され、付録や特典として使用。
■ 食玩/スナック菓子・お菓子
食玩ミニフィギュア/ウエハース
ラムネ菓子付きミニフィギュア(PVC)、ウエハース付カードなどの企画商品が文具店やスーパーで販売されました。キャラセット系ミニフィギュアは「カトリとアベル」等の牧場セット仕様も存在。
クッキー/チョコレート缶
放送期間中~季節のキャンペーン(春休み・クリスマス等)に合わせ、アニメ場面をデザインした保存用缶に入ったクッキーやチョコレートが発売。食後も小物入れとして活用。
粉末飲料+シール
粉末ジュース(ラムネ味)とキャラクターシールがセットになった商品が文具店などで販売され、子ども向け収集意欲を駆り立てました。
●オークション・フリマなどの中古市場での状況
■ 書籍・ムック・雑誌掲載
『チックンタックン』に関連する書籍の刊行は非常に少なく、ファンにとっては情報収集が難しい状況となっています。
アニメ雑誌(アニメージュ、アニメディア、OUTなど):
放送当時の1984年のバックナンバーには、『チックンタックン』の作品紹介ページやキャラクターイラストが数ページ掲載された例が散見されます。特集というよりも“春の新番組ガイド”のような位置づけでの紹介が多く、特別な深掘り記事は希少です。
ヤフオク!では該当号の状態が良好なものが1冊あたり1,000円~3,500円程度で取引されることがあり、付録やポスターの有無が価格に大きく影響します。
■ 音楽関連(主題歌シングル・EP・カセット)
音楽商品は極めて限られていますが、コレクターの間では注目される存在です。
EPレコード(7インチシングル):
オープニングテーマ『好きしてチックン!!』(歌:平野文)およびエンディングテーマ『Dr.ベルのテーマ』(歌:千葉繁)が収録されたEP盤シングルレコードが当時発売されました。
ヤフオク!では状態や帯の有無によって3,500円~7,000円前後で取引されており、盤の反りやノイズの有無、ジャケットの美品度が価格を左右します。
カセットテープ版:
アナログレコードのほか、稀にカセット版も存在するとの情報があり、こちらはヤフオク!での流通は非常にまれです。確認されている取引では2,500円~4,000円ほどの価格帯となっていました。
■ ホビー・おもちゃ・フィギュア
『チックンタックン』関連の玩具は、非常に少量しか製品化されておらず、ヤフオク!で見かけるのは稀です。
ソフビ人形・PVC製ミニフィギュア:
主役キャラクターのチックン、タックン、Dr.ベルなどをかたどったソフビ製フィギュアが一部企業から発売されていた記録がありますが、製品数はごく少数。
出品は不定期で、希少な出品時には落札価格が8,000円~20,000円以上にまで達する例もあります。特に台紙付き未開封品は高額になりやすい傾向があります。
■ 食玩・文房具・日用品
短期放送アニメの宿命として、こうした生活雑貨系グッズも種類が非常に限られています。
文房具(下敷き・ノート・鉛筆):
番組のプロモーション用としてごく少数、B5サイズの下敷きやキャラクター柄の鉛筆が製造された事例が確認されており、ヤフオク!では数年に一度出品されるレベルの希少品です。価格は1,500円~4,000円程度。
食玩(シール・カード・菓子付):
スーパーや駄菓子屋向けに流通していたシール付きお菓子やカードガム系の製品は、出現率が非常に低く、現存数が少ない。確認されているシール単品でも500円~1,500円程度の値が付くことがあります。